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26 商会長と次期男爵

 さて、最強無敵になると誓ったものの、どうすればなれるのか?

 

 パッと思いつくのはもっと強い魔法――魔法石を集める。魔法技術を磨く、戦闘技術を磨く、戦闘経験を積む。

 

 どれも一朝一夕ではどうにもならないものばかりだ。要するに今まで通り――今まで以上に頑張るしかないという事だ。

 

 あれから、数日経つが、刺客や尾行の気配は無く、毎日狩りをしたり魔法の練習をしたりと穏便に過ごせている。

 

 けどあのおじさん、1回失敗したくらいで諦めるようなさっぱりした性格じゃないと思う。1回会っただけでも分かるほどの粘着質だった。

 

 今頃、またすぐに悪だくみしてそうで怖い。

 

 

 ☆

 

 

「何だと?ロバート、もう一度言ってくれないか?」


「例の少女に差し向けた者達でございますが、暴行や少女達を奴隷商に売る目的で略取した咎で、現在、留置所に拘留されているようでございます」


「――何故だ?少女達と言うのは何だ。アイツらは一体何をしている?私はミラと言うあの子供から宝の在処を聞き出して殺せと命じたはずだろう?」


「はい、旦那様。念のため私が付けた者の報告では、あの者達は連日、街でミラを尾行して撒かれ続け、それならばと森でミラを待ち伏せ、尾行しようとして撒かれ続け、数日もすると諦め始めたようでございます」


 そこまで聞いて、ロバートの主人、マチーボン商会の会頭、ポズン・マチーボンは顔を顰めたが口は挟まなかった。


「――そうしますと当然、報酬の残りの半金は得られませんので、代わりに適当な少女達を狙って攫い、売って金を得ようと画策していた模様でございます」


「――だが、何故、留置所などに居る?その少女達をさっさと売り払って行方を晦ましたのではないのか?」


 当然、前金を受け取って後ろ暗い仕事を請け負ったたのに、その仕事をすっぽかすのだからタダで済むはずがないと馬鹿でも分かる。まともな危機感があれば逃げるなり何なりするはずだ。


「それが、探索者ギルドから少女達の捜索依頼が出されたようで、その依頼を受けたミラによって少女たちは救出され、あの者達は全員捕縛されたとの事でございます」


 ポズン・マチーボンが信じられないといった様子で固まった。

 

「――だが、10にもならん子供だぞ?」


「その子供に手も無く捻られた模様で――人攫いとしての実績?と申しますか――少なくとも子供の扱いには長けた連中との触れ込みでございました」


 いくら聞いても、信じられないが、ともかくあの子供には、数人の手慣れた人攫い連中を軽く蹴散らす力があるのは確からしい。

 ポズン・マチーボンは自分が考え違いをしていたことに気づいた。

 

「――旦那様、如何に貧民街の子供とは言えこの度の仕儀、些か……」 

 

 常にポズン・マチーボンの忠実な側近であるロバートが苦言を呈するのは珍しい。 

 

「ああ、まあ少し大人げなかったかもしれないな。あの子供の生意気な目が、どうにも癇に障ったのだ。――だが、見ろ。やはり私の見込み通りだった」


「……と、おっしゃいますと?」


 ロバートは困惑しかすかに首を傾げる。 

 

「あのミラという子供は、間違いなく何かとんでもない物を隠している。あんなケチな器などではない、何かを――ただの勘だったが、確信に変わったよロバート」


 一転、上機嫌になったポズン・マチーボンに当惑するロバートの元に、1人の女中が近づいて来客の報を告げた。

 

「何?――すぐに準備を」


 ロバートが女中に指示すると、彼の部下達が慌ただしく動き始めた。

 

「――旦那様」


「どうした?」


 心躍る妄想から引き戻されたポズン・マチーボンは少し気の抜けた表情でロバートを見た。

 

「ホズアデク家のミゴスカ様が急遽、当家を訪いたいと仰せだそうで、既に向っておられるそうでございます」 


「何だと?また金の無心か――?」


「さあ、私には分かりかねます。それより、お急ぎになりませんと――」


「面倒な。……仕方がない、すぐに用意を」


「かしこまりました」


 ロバートも出迎える準備のため、主人の傍を離れて行った。

 

 ホズアデク家とはこの街の領主家に仕える貴族家の一つであり、領地を持たず、代々、領主家に仕える役人や武官を輩出している男爵家だった。

 

 そしてミゴスカはホズアデク家の長子で次期当主――近い将来ホズアデク男爵と呼ばれる事になる人物であり、マチーボン商会のお得意様だ。


 暫くの間、ロバートと女中たちが忙しく出迎えの準備に動き回り、何とか取り繕った頃、ミゴスカがやって来た。

 

 ロバートに案内され、供の男を一人連れたミゴスカがふんぞり返って応接室に入ってきた。この家の主であるポズン・マチーボンだが相手は貴族家次期当主。ポズンは腰を低くして出迎えた。

 

「これはミゴスカ様、ようこそおいで下さいました。本日は急なご用向きと伺っておりますが、いかがなさいましたか――?」 

 

「商会長、急に来て済まないな。いや、何、退屈しておったのだが、ここの所、商会長にご無沙汰していたと気付いてな。ご機嫌伺いに来たというわけだ」 

 

「それはそれは、手前どもの方こそご無沙汰いたしまして、申し訳ありませんでした。――では、ご無聊を慰めるため、何かお求めの品でもございましたか?」


 まさか言葉通り、退屈しのぎで来たわけでもあるまい、ポズン・マチーボンはそう思いやや警戒しつつそう聞いた。

 

 ミゴスカのホズアデク家は領の役人達を数多く輩出しており非常に顔が利くため、この領で多少の無理を通したい時に重宝する男ではあるのだが、如何せん、そのための経費もバカにならない男だった。

 

「そういうのも良いが、今日来たのは別の用件でな。商会長、最近、伝え聞いたのだが其方、何やら貧民街のとある小娘に随分と執心だそうだな?何でも直接会うためにわざわざ自ら探索者ギルド会館まで足を運んだと聞く」


 いったいどこから洩れたのかとポズン・マチーボンは歯噛みした。だが外部の、それもあんな質の悪いならず者を使ったのだ。漏れないはずも無かったと、情報漏れについてはすぐに諦めた。

 

「はっはっはっ、お戯れを。執心などというものではございません。かの子供が森で何やら珍しい器を発見して持ち帰ったと言うので、少々興味がわき、商談に参ったのです」 


「ほう?して、首尾はどうだったのだ?」


「器は買い取りましたが、残念ながら、何処で見つけたかは教えてもらえませんでした」


「それで、商会長は納得したのか?」


「――とおっしゃいましても、相手が教えぬと申すわけですから……」


 ミゴスカは可笑しそうに口を歪める。

 

「ほう、納得していると?――では不審者を使って子どもを殺そうとした、という話は根も葉もない噂だということかな?」


 ポズン・マチーボンは、ニヤニヤと笑いながら自分を見るミゴスカの様子で、彼が全て調査済みなのだと理解した。


「……それでミゴスカ様、何をご所望なのでございましたかな?」


「其方がご執心だという子供が欲しい。正確にはその子供の持つ情報――お宝が、だがな」


 つまりポズンが諦めないなら、ミゴスカと――ホズアデク家と敵対するしかない、という事だ。

 

 ポズンの勘が「この儲け話を手放すな」と訴えていたが、流石に何の確証もなしに出来る賭けではなかった。

 

「承知いたしました。マチーボン商会は手を引く事と致しましょう」


「ふむ、随分あっさり退くのだな。良いのか商会長?」


「もちろんですとも」


「そうか。殊勝な事だな」 


 ミゴスカは供を促し、立ち上がって踵を返した。

 ミゴスカの後ろで微動だにしなかった供の男が頷いて追随する。

 

「――ミゴスカ様、彼はお見掛けした事がありませんが、新しい側近の方でございますか?」 


 ポズンが気になっていたことを聞くと、ミゴスカが振り返り、またニヤリと笑った。

 どうやら彼はミゴスカの隠し玉だったようだ。


「気になるか、商会長」


 やり込められたのが悔しくて、余計な事を聞いてしまったとポズンは後悔した。

 

「――ええ、お教えいただけますでしょうか?」


「ふむ、極秘なのだが、まあいいだろう」


 そのミゴスカの様子から、自慢したかったのだと分かった。質問しなかったらご機嫌を損ねていたかもしれない。

 

「この男は私の新しい護衛であり――腕利きの魔法使いなのだよ」  


 そう言って、ミゴスカは会心のドヤ顔を見せつけたのだった。



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