21 捜索
私は探索者ギルド会館で、いつもの受付のお姉さんから行方不明の新人パーティの普段の活動エリア、メインに狩っている魔物や採取物などの情報を聞いてから、いつものパン屋でパンを買って拠点の寝床に戻った。
流石にもうすぐ夜なので、今から森に入っても何も見えないし探せない。危ないだけで良い事が無いので捜索は明日、日が昇ってから行うことにした。
☆
翌朝。日が昇ると同時に起き出し、拠点を出て、そのまま速足で街を出た。
行方不明になった新人探索者パーティは、割と堅実にやっていたらしく少し前の私と殆ど同じ、森の浅層、それもほとんど入口付近で活動していたらしい。
そんな浅層でも稀に見つかる貴重な薬草などを狙いつつ、安価で簡単に手に入る薬草を集めて糊口をしのいでいたようだ。
私と違いパーティなのでお互い護り合う事で比較的安全に探索可能だが、その分、人数分稼がなくてはダメで、安い薬草だけでは食っていくだけでも厳しく、魔物も積極的に狙っていたという。
ただ、そちらも成果の方はあまり芳しくなかったようだ。魔物の専門的な知識か、追跡術や魔力探知などの術が無くては、森で獣や魔物と狙って遭遇するのは難しいのだ。
ちなみに罠などの扱いは微妙だ。巨木の森は未開発の状態ではどこの領地でもないので持ち主はいない。そのため、罠を設置しても良い顔もされない代わりに誰からも文句は言われない。
そして、たとえ罠が壊されても掛かった獲物を盗られても、現行犯で取り押さえない限りは罪には問えないのが現状だ。
その為、あまり罠猟をする人はいないし、新人ならなおさらだった。
そんな新人パーティが生きていくには良い後ろ盾を見つけるか、犯罪に手を染めるか、地道に頑張りつつ生きてる間に何とか実力をつけるしかない。
私が捜索を依頼されたパーティは新人で子供という事もあって、まだ普通に真っ当に実力を磨こうとしていて、受付のお姉さんも見守って応援しているのだという。
私は森に入り、彼らがいつも活動している辺りまで最速で走った。おかげで今日は尾行があったかどうかも分からなかったしヨーコも何も言わなかった。
その一帯は、私がこの間までレアモンを探していた隣町寄りのエリアに近かったので、割と「ああ、あの辺だな」と分かる場所も多い。
少し速度を落として小走りで森を捜索していると、進行方向からたくさんの犬のような唸り声や吠え声が聞こえて来た。
犬型の魔物は単体だと危険度もそれなりだが、群れに遭遇してしまうと覚悟が必要になる。
ただ、群れならかなり強力な魔物すら狩ってしまうので、普通あまり森の浅層にはいない。浅層をうろついているのはハグレ個体だけなのだが――。
私は風下に回り込んで慎重に近づいて行く。
本来は先に発見できた幸運に感謝して即逃げるべきなのだが、今回の依頼は捜索で、目的の新人パーティが襲われているかも知れない以上、可能ならせめて確認くらいは、と思ったのだ。
最悪、木の上に逃げるだけならイケると思うし、ヨーコが止めないなら大丈夫という判断基準もある。
音を立てないように、木々の隙間からそっと覗き込むと5匹ほどの犬型の魔物が1本の木の周りをウロウロと歩きまわり、唸り声を上げていた。彼らは一様に頭上を見上げている。
「ガルルルルル――ガウッガウッ!」
「グルルルッ!」
視線を上に向けると、少女が1人、木の枝にしがみついていた。疲れ果てた感じでぐったりしている。もしかしたら一晩中この状態だったのかもしれない。
その時、中の1匹が耳をピクリと動かし、キョロキョロと周囲を見回した後、こっちを見た。バレたらしい。
そう思った瞬間、私は隠れていた木の陰を飛び出して全速力で彼らに向って走り出していた。以前では考えられないほどの速度でアッという間に距離を縮めていく。
「ワンワンワンワンッ!」
警告の吠え声と共に他の4匹がこちらに振り返った時には射程圏内。即座に走りながらの一撃を振り下ろす。
「グシャッ!」「ギャゥンッ!?」
ちょうど私の方へ振り向いた瞬間だったのでモロに眉間に入った。
そのまま余勢を駆って振り下ろした杖先を別の1匹の喉元に突き上げた。
「ブシッ!」「ゴバッ!?」
杖先が犬型魔物の喉を潰し跳ね上げる。同時に左右から2匹が私の足めがけて咬みついて来るのを跳んで躱した。発雷鼠狩りの時から、つい跳んでしまう悪癖だった。工夫も無くただ跳び上がったら空中で身動きが取れなくなるのだ。
幸い、2匹の犬型魔物は咬みつき攻撃が空ぶったあと反射的に一歩引いて上を見上げてくれたので、着地しながら1匹の頭を叩き潰した。
これで普通に動けるのは2匹。彼らにとって目の前に居るのは普段なら捕食できる確率の方が高い、身体の小さな子供に見えているだろう。だったら当然襲って来るだろうから、カウンターをとるべく構えて待っていると、最初に私に気づいたリーダーっぽい1匹が小さく唸り、残った2匹だけで走り去っていった。
獣も魔物もシビアだ。戦えなくなったら仲間も手下も置き去りだった。そして私はホッとしていた。何とか倒せたし、魔法を使わずにすんだからだ。
私は腰から解体用ナイフを抜いて、転がっている犬型魔物にそれぞれ止めを刺していく。
それから木の上を見上げて少女に声をかけた。
「――大丈夫?大丈夫そうなら降りて来て」
少女は怯えた表情で頷き、意外に軽い身のこなしで木の上から降りて来た。改めて良く見ると私は、彼女の顔を見たことがあった。
「貴女の名前は?レナ、リア、ミサ、テアという新人探索者を見かけてない?」
「――そ、それ私達の事です。私はテアです」
まあ、こんな所で魔物に襲われて立ち往生してるなんて、タイムリー過ぎて「そう」だとは思ったけど。
「そう。私は貴女達のご近所さんで同業者のミラ。ギルドからの依頼で貴女達を捜索してた」
「――ギルドが……私達を?」
「もちろん、本当の依頼人は受付のお姉さんだよ」
そう言えば、誰の事かはすぐに分かったようだ。テアは納得した表情で頷いた。
「疲れてるとこ悪いけど、一昨日から戻っていない事情を聞かせて」
「あ……はい」
テアによれば、街で彼女達にしつこく絡んでいた不審者達に、一昨日の夕方、森で遭遇して襲われて拘束されてしまったらしい。
早く解体を済ませて帰らなきゃと、焦っていた事もあり、彼女達は不意を突かれてあっという間に叩きのめされてしまった。
怯える彼女達を見て、その中からテアを選び出した不審者達は、メッセンジャーとして、夜の森の中へ、テア1人で送り出したらしい。
テアが放り出された一帯は、この辺りよりもう少し深度が深い位置で、街の方向だけ教えられたが、夜で視界が悪い上、あまりその辺りで活動した事のないテアはすぐに迷った。
そして運悪く犬型魔物に見つかり、逃げきれずここで立ち往生していたらしい。
「――それで、伝言というのは?」
「えっと『仲間は預かった。殺されたくなければ一人で来い。この事を誰かに話したり誰かを連れてきたりしたら全員殺す』だそうです――」
テアはそれが誰への伝言かは言わなかった。もちろん私宛だからだ。テアは私の名前も顔も以前から知っていたのだろう。さっき私が名前を告げても特に反応はなかった。
「――私たち、ミラさんの仲間なんですか?」
「アイツらから見れば、あの辺に住んでる子供は皆、仲間なんだろうね」
テアは自分達が襲われた理由も、その事で誰に怒りの矛先を向ければ良いのかも分からず、困惑の表情を浮かべていた。
「疲れてるとこ悪いけど、不審者のベースキャンプまで引き続き案内してもらうよ」
テアはすぐに頷いた。仲間の為に労を惜しむ気は無いようだ。
私はと言えば、このままテアを保護して連れて帰っても依頼達成になるかもしれないが、その場合、ギルドが救出隊を派遣してくれるかどうか、派遣してくれたとして間に合うかどうか、正直微妙な気がした。
「――ま、『これも渡世の義理』だよね」
(ミラってば、まるでおっさんみたいよ?)
そう言いながらヨーコも少し嬉しそうな雰囲気を醸している。きっと、新人パーティの子供達に同情しているのだろう。
ちなみにその「言い回し」は探索者ギルド会館に出入りしているおっさんたちが良く使っていて、知らず知らずのうちに聞き覚えてしまっていた言葉だった。
おっさんたちも断れない何かに苦労してたんだと思うと、私は心の中のおっさんを少しだけ許した。
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