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20 不審者

 翌日。相変わらず、私は朝一番で発雷鼠を5匹狩り、そのまますぐに森を流しながら虫型魔物を探して狩る、いつもの特訓を続けていた。

 

 その特訓にいつも以上に熱心に取り組んでいるのは、物欲のせいか向上心か危機感か――。

 

 魔法石がレアなのは分かっていたことだが、これだけ出ないと焦れて来る。もっと大きく強い魔物を狙えば、魔石を持っている率が上がるので、自然、それが魔法石である確率も上がるのだが、その大きく強い魔物を効率よく狩るには強い魔法石が必要なのだ。ヨーコは(「カンヅメノナカノカンキリ」ね~)とか言ってたが――。

 

 危機感と言えばやはりあの商会のおじさんだ。ハッキリしっかりお断り出来たと思うが、あの粘着そうなおじさんがスンナリ諦めてくれるかどうか考えると、非常に心許ない。

 

 ヨーコによれば今日は尾行はついていなかったらしいが、毎日毎日、尾行を撒きながら行動するのも非常に面倒くさい。なんかこう一気にスパッと解決できないものか。

 

 ――まあ、愚痴である。そんなのあったらとっくにやってる。

 

 そしてさらに翌日、街の門を出たあたりから尾行されている気配がする、とヨーコが教えてくれた。

 

 私も一応、魔力探知しているのだが、常時、緩みなく出来ているかと言われれば全然で、安全や大事な秘密に関わることなので、私が全く気付いていないようなときはヨーコが教えてくれるのだ。超有難い。

 

 私はややスピードを上げて森を駆ける。するとしっかり気配を隠した尾行は難しくなる。ある程度、追手と距離が開いたら一気にスピードを上げて完全に撒いてしまう。

 

 こういう日は、発雷鼠は後回しだ。幸い、虫型魔物は割と何処にでもいるので、探しながらどんどん移動する。おかげで、私の行動範囲は以前とは比べ物にならないほど広くなった。

 

 森の深度も少しずつ奥へ踏み込みつつ、自分の限界を探っている。

 

 いつも通りレモンティとカレーで昼休憩したあと、街の方へ戻って発雷鼠を5匹狩り、また虫狩りを再開する。もう虫もトータルで何匹狩ったか分からないほどになり、さすがに、慣れてきた。普通にキモいけど。

 

 虫の擬態は正直感心する。魔力探知が無ければ絶対気づけないレベルで、枝や木の実や葉っぱ、石や他の生物まで、いろんなものにほぼ完ぺきに化けている。

 

 擬態している奴は、多少デカくても見つけることさえ出来れば狩るのは簡単だが、もし人間以上にデカいとか毒がある奴が擬態して狩りをしていれば、かなり強い獣系魔物と比べても、ヤバさは虫が勝つかもしれない。

 

 ☆

 

 数日後。飽きもせず尾行してくる連中を撒きつつ、狩りを終えて夕方、探索者ギルド会館で発雷鼠の肉と素材を売って帰ろうとすると、いつもの受付のお姉さんに呼び止められた。

 

「ミラちゃん、実はちょっとお話があるんだけど――」 

 

「え……っと、何ですか?」 


 私はあからさまに警戒してしまう。お世話になっている受付のお姉さんとは、そこそこ気心もしれていて、「言わなくても伝わってくるモノ」もある。

 

「実は、最近ギルドに登録したような新人の子達に、微妙な絡み方をしている人がいるらしいの――」 

 

 やはり、厄介事だった。微妙、という事はハッキリ加害行為、敵対行為と言えないレベルで新人がイチャモンをつけられているという事か。

 問題の人物は見るからに素行不良という感じでもなく、パッと見、ごく普通の探索者に見えるらしく、皆、最初は警戒心なく話を聞いてしまうらしい。

 

「不良探索者という事ですか?」 

 

「それがどうも探索者ではないようなの。それらしい格好でギルド会館の近くや探索者の良く出入りするお店なんかで絡まれるからつい同業かと思っちゃうらしくて、余計絡まれやすいみたいでね」 

 

「――そうですか、連絡ありがとうございます」 

 

 日々の尾行に加えて、さらなる厄介事にも気を付けないといけないとは。私は思わずため息をついた。

 

「いえ、それが――その人達がどうもミラちゃんの事を色々聞いて回っているらしくてね――」 

 

 受付のお姉さんが言いづらそうな心配そうな顔で口ごもった。成る程、それでわざわざ警告してくれたのだ。

 

 勿論、不審者とは言え何もしていないのに捕縛したり尋問したりもできない。そして私は誰にとっても重要人物でもなんでもない、ただの貧民街出身の下級探索者なので、私が自分でお金を払って依頼しない限り、わざわざギルドが私の安全に気を配ったりしない。警告をもらうだけでも十分ありがたい。

 

「――分かりました、気を付けます」 

 

 まあ、このタイミングなら、あの商会のおじさんの仕業だろうか?それとも、このタイミングだからこそあからさますぎて、あの商会ではない可能性もあるか。

 

 気を付ける、と言っても正直、出来る事は殆ど無い。引っ越すわけにもいかないし、探索者を辞めたら食べていけない。いや、まあカレーはあるが――。

 それはそれで、なんで生きていけるのかと悪目立ちするかもしれない。

 

 私は翌日からも普通に尾行を撒いて、普通に狩りをした。ただ、街に居る時もあるのに、その迷惑な不審者に私が直接絡まれることは無かった。その辺も、あのおじさんの仕業くさいが――。

 

 ☆

 

 そんなある日の夕方、探索者ギルド会館に来た私に、いつもの受付のお姉さんが小走りに近づいて来た。

 

「ミラちゃん、指名依頼です。会議室までお願いします」

 

 私が頷くと、お姉さんが先導していつもの会議室の隣の部屋に案内された。こっちも会議室らしい。

 

 私がイスに座ると、テーブルを挟んで向かいの椅子にお姉さんも座る。

 

「――それで、指名依頼というのは?またお肉ですか?」

 

「いえ、それが先日、お話した不審者がらみなんです」 

 

 やっぱりか。そんな気はしていた。そうでなければ良いと思っていたのだが――。

 

 お姉さんの話によれば、今回の依頼は人探しらしい。

 

「――実は、新人探索者のパーティが1組、行方不明になっています。今回の依頼はそのパーティの捜索になります」 

 

「えっと、何故、私に?依頼人は誰ですか?」


「依頼人は今回も探索者ギルドになります。そして何故、ミラちゃんにお願いするか、ですが――」


 何でも、その新人パーティも、例の不審者に何度か絡まれているのを目撃されているらしい。

 その新人パーティとのやりとりをよく担当しているのがお姉さんで、昨日から姿を見ていないらしい。そして同じく昨日から不審者達も姿を目撃されていない。


「――たまたま、今日はお休みということは?」


「昨日、報告に帰ってきていないんです。あの子達は泊まりの仕事はまだしないはずですし、毎日カツカツなので基本、休みませんから――」

 

 どうやら私とほぼ同い年か1個下くらいの子達らしい。多分、ご近所さんだろう。私自身は最近、あまり心配しなくなったが、世間的に私達はまだまだ人攫いにとって良いカモなのだ。

 

 そして私達が行方不明になったところで誰も捜索願いなんか出さない。当然、ギルドが探してくれる事も無い。という事は、依頼人はギルドというより、お姉さん個人らしい。

 

「――分かりました、引き受けます」

 

「有難うございます――ごめんなさいね」 

 

「問題ありません」 

 

 お姉さんのお願いだし、私は依頼を引き受けることにした。今回のトラブルに私が関係あるかどうかは、正直まだ分からない。

 

 最悪、私の巻き添えだったとしても、別に私は自分に責任があるとは思っていない。

 悪いのは私への逆恨みを関係ない人へ発散したり巻き込んだりする犯罪者であって、私ではない。

 

 だが、関係ないお姉さんがここまでしているのだ。私達のような貧民街の子供の為にしてくれる、純粋な善意というか、お姉さんは自腹を切ってまで依頼しているのだ。

 

 流石の私でも心を動かされた。それにあのおじさん――とは確定していないが――しつこすぎて、私は相当イライラが溜まっているのだ。

 

 勿論、依頼されたのは人探しだが、それで終わるとは思えない。私は断然「やってやろうじゃないか!」という気持ちになっていた。



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