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2 魔法石

 私が固まっていると、さらに声が聞こえて来た。

 

(知らないかな?魔物を解体すると魔石が採れることがあるでしょ?魔法石というのは物凄~くレアな魔石って感じかな?) 


 私が黙っていると「声の人」はそのまま話し続け、魔法石について色々教えてくれる。

 

 曰く、魔法石というのは魔石の中に、魔物の魂が宿っている物で、直接、魔法石に触れて魔力を供給する事でその魂に刻まれた特殊能力――魔法が使えるのだという。

 

 しかも特に資格も相性もなく、誰でも使えるらしい。そのせいで高位貴族や相応の実力を備えた者達が独占していて、平民ならその存在すら知らない者も多いと言う。


(どぉ?分かってくれた?ちなみに、今、わたしは貴女の心に直接話しかけている感じ。そういうのを「念話」と呼んだりもするわ。あ、でも「心に直接」と言っても考えが読めたりしないから心配しないで。貴女がこれから口に出して話そう、と思った事が直前に心の表層に浮かび上がるからそれを読み取るだけ。貴女が口に出すつもりのない、心の奥底で考えていることは全然読み取れないから安心してね)

 

 困惑から立ち直った私だが、今度は「声の人」の怒涛の如き言葉の奔流に唖然とした。そして私がずっと黙ったままだったので「声の人」は途切れることなくしゃべり続けていた。

 

「ちょ、えっと、ちょっと待ってください」


 私が口を挟むと「声の人」が一旦しゃべるのをやめてくれた。 

 

(あら、ごめんなさいね。もう100年以上、持ち主が魔物ばかりで――魔物って話しかけても基本、話が通じないからおしゃべりに飢えてたの。だって、わたしは元々、生きていた時は人間だったから――) 

 

 そう言われて、ちょっと想像してしまった。すると、否応なく同情心が湧いて来てしまう。100年以上、魔物としか話せず、しかも無視されて、他には誰とも話せないなんて、辛過ぎる。私なら気が狂ってしまいそうだ。

 いや、別にそんなにおしゃべり好きではないけど、そんな私でもたま~には喋りたい時もあるのだ。

 

「――ぇえっくしょい!へっくしょい!」 


 思わずくしゃみが飛び出した。「声の人」と話をしている内に、大分、身体が冷えて来た。

 

(あら)

 

「すみません、寒くなってきたので、帰ります。街ではあまり返事できないと思いますけど――」


(ああ、うん、良いの良いの。分かってるわ。魔法石なんて持ってると人に知られたら間違いなく狙われちゃうもの)


 声の人が、さらっと怖い事を言う。

 勿論、私もお宝を手に入れた、なんて人に言いふらすつもりは全く無かったが「街で返事が出来ない」と言ったのは単に「ぶつぶつ独り言を言っている人みたいに見られそうで嫌だから」くらいの理由だったのだ。

 

「そ、そんなに、ですか?」


(そうねぇ、相当な大金を積まれても、手放す人はあまりいないんじゃないかしら?魔法石を欲するような人は大貴族や大商人のような桁外れのお金持ちか、戦いを生業とする人々の中でも飛び切りの実力者なの。そういう人たちは何事も自分の思い通りになると思っている人が多いから――譲ってくれないなら力づくで、って感じで、ね?)


 ね?って可愛く言われても怖すぎるし、嫌すぎる。

 ただ、それほど稀少で貴重だということなんだという事は何となく理解した。人に知られて狙われる前に、さっさと売ってしまった方が良いのかもしれない。

 

「――ふ、ぇえっくしょい!ぶえっくしょい!」


(ああ、ごめんなさい、このままじゃ風邪ひいちゃうわね)

 

「そすね、とにかく戻ります」


 ちょっと体が震えて来た私は、急いで荷物をまとめて街に向って歩いた。途中、小走りに走って時間を短縮したが、街に着いた時にはもう夕方近かった。

 

 すぐにも身体を拭いて着替えたいが、せっかくの肉を腐らせたら最悪なので、探索者ギルドに売りに行く。ただ、夕食用に2人分だけ切り分けてもらって持ち帰る。ロナの分だ。

  

 不要な気遣いかもしれないが、ロナとは用心の為、近くで寝る事が多い、というかほとんど拠点を共用している。自然、夕食も一緒になる事が多く、その時、私だけ肉を食ってると微妙な雰囲気になってしまう。まあ、ロナがくれる事もあるし、お互い様だ。

 

 肉と毛皮を売って二人分の肉片を籠にいれ、肉の売却金と魔法石をズボンのポケットの中で握り締めて拠点へ急ぐ。チャリチャリと音をさせると小銭を持っているのがバレてしまうからだ。


 ちなみに残りの肉と毛皮はあわせて小銀貨3枚で売れた。小銀貨1枚で銅貨10枚分、銅貨1枚で半銅貨2枚分、半銅貨1枚で小銅貨5枚分だ。私達がこれ以上大きいお金を見ることは殆ど無い。

 銅貨1枚で小さいパン1個買えるので、大事に使えば数日は食べられる。 

 

 ちなみのちなみに拠点と言っても貧民街の空き家の一室を、ロナと二人で利用していると言うだけだ。

 この空き家には同じような身の上の他の子供達もよく出入りしているし、この辺りには他にもそういう空き家や廃屋が多く、概ね同じような使われ方をしている。

 

 そんなところに大人が紛れ込むと非常に目立つので子供を攫いにくくなる。

 子供同士、寄り集まることで、お互いがお互いを利用しつつ、最低限の安全を確保しているのだ。

 

 勿論、お互いに信頼し合えているわけではない。人攫いや犯罪者より子供同士の方がマシというだけだ。それ程、貧民街の治安は悪い。

 

「ぶ、ぇえ~っくしょーい!……ただいま」


「おかえり~遅かったじゃん?」


「帰り際にウサギに襲われて狩ってきた。解体とかしてたら遅くなった。はいこれ肉」


「おー、ラッキーじゃん!サンキュー♪」


 肉を受け取ると、ロナは私が身体を拭いて着替える間に肉を焼いてくれた。

 

「数日ぶりのお肉だなー。誰かにたかられる前にさっさと食おう」


 焼けたウサギ肉にロナがさっさと齧り付く。私も殆ど遅れず食べ始めた。ロナも私もあっという間に完食する。こんな場所なのでゆっくり味わって大事に食べるのはリスクが高いのだ。

 

「ふぁ~食った食った~おやすみ~」


 食事が終わるとロナはさっさと寝てしまう。私は濡れた服を紐で吊って干してから、壁際で静かに目を瞑る。

 

 だが、すんなりとは寝かせてもらえなかった。「声の人」が頭の中で喋りだしたからだ。ロナが近くで寝ているので返事は出来なかったが、構わず「声の人」はしゃべり続けていた。人に向って喋れるのが余程うれしいらしい。

 

 そんな「声の人」は思いつくまま、色々、話し続けていたが、私が興味を持ったのを感じ取ってか、魔法石や魔法の事も話してくれた。

 

 ちなみに「声の人」の生前の名前は「ハトムラヨーコ」または単に「ヨーコ」というらしい。長くて変な響きだと思ったが、昔、ヨーコが生きた時代はそういう名前が多かったという。

 

 それはともかく私が興味を持ったのはもちろん、魔法の事だ。森で聞いた内容通りなら私は今、魔法が使えるということじゃないだろうか。

 

 そう思って興味深く聞いていたのだが、どうやらそこまで簡単という事はないらしい。ガッカリだ。 



読んでくれて、ありがとうございました♪

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