19 商談
それにしても、貧民街の子供相手に何でこんなに大げさに執着するのか?魔法はバレてないはず。だったらお皿とグラス、スプーン、それだけでここまで?
私は首を傾げながら会議室のドアを潜った。
「失礼します。こちらがお待ちの当ギルドの下級探索者ミラです」
「ありがとう。あとは我々だけで話すので下がってくれ」
受付のお姉さんが私を部屋に招き入れて紹介すると、貫禄のある立派な体格の男の人が低い声でそう言った。
着ている服はド派手という訳ではないが適度に豪華で清潔感もある。デブではなくガッチリという体形でかなり迫力があるおじさんだった。そしておじさんの後ろには細身で姿勢の良い男が直立している。
「ミラちゃん、良ければ立ち合いますけど――」
「いや、商談をしたいと思っている。部外者には聞かせられない。悪いが出てもらおう」
受付のお姉さんが心配そうに私を見たので、大丈夫と言って部屋を出てもらった。正直さっさと終わらせたいのだ。
「――やっとお会いできましたな?」
おじさんはまるで本当に私に会えたことがうれしいのだと言うような感じのいい笑顔でそう切り出した。
けど、今までの尾行はこの人の指示なのだから、どんな顔をしていようとこの人は信用できないと決まっている。
「はじめまして。下級探索者のミラと言います」
「これはこれはご丁寧に。新進気鋭の若手ナンバーワン探索者との呼び声も高いミラさんにお会いできて光栄でございます。私はマチーボン商会の会頭をしております、ポズン・マチーボンと申します。どうぞお見知り置きください」
普通に挨拶したらものすごく粘着質な挨拶を返されてしまった。この人、大分、面倒臭いかも。
「えっと、それでお使いの人からどうしても話したい事があると聞いたんですが――?」
私は「そーいう感じ」は無視してさっさと話を進める事にした。
すると、背後に控えた細身の男が音もなく動き、テーブルに見覚えのあるお皿を置いた。
「ええ、ええ、勿論ですとも。実は先日、私共の商会にこのような商品が持ち込まれまして――」
「はい」
「――お急ぎとの事で係の者が良く確かめもせず買い取ったのですが、後で事情を聞くと少々訳アリの様子でして。それで遅まきながら調査いたしますと、売り主は素行の良くない少年達で、盗品の疑いがあるという結果でございました。更に調査いたしますと、どうやらミラという少女から盗んだものであるらしいと分かりましたのです」
おじさんはニコニコしながら私の顔を真っすぐ見て話し続ける。
だが、目は笑っていない、そんな感じだった。こういうのは受付のお姉さんで慣れている。所謂、商売用の笑顔だった。
「はい」
盗難については完全に調べがついているようなので、私は素直に頷いた。
「おぉ、やはりそうでしたか。災難でございましたな。勿論、本来の持ち主であるミラさんにお返しさせて頂こうと思っております。本日ここに持参しておりますので――」
「そうですか、ありがとうございます。じゃあ、良ければ安くても良いのでもう一度、買い取って貰えますか?」
「――よろしいので?」
「盗まれたのは腹が立ちましたけど、実は場所塞ぎだったので、ある意味丁度よかったので」
「なるほど、勿論構いませんとも。ロバート」
「はい、こちらに」
そう言って、細身の男の人――ロバートさんが、何時の間に出したのか、綺麗なお盆に紙とお金を載せてテーブルの上に差し出した。
「こちら内訳と買取金でございます。ミラ様がご承知下さればこちらでご査収の程よろしく御願い致します」
私が言い出すまでもなく買い取るつもりで値段まで決めていたらしい。喜んで返してもらったら悔しがるんだろうか?それとももう一度値段交渉してあげるとか。そしたらあの紙、書き直すんだろうか?
――まあ、邪魔だし面倒だからやらないけど。不必要なほど丁寧な対応のわりに、そういう所で本当は私など相手にもしていないのが透けて見える。
私はさっさと受け取り、会談を終えるべく挨拶をした。
「いえ、お待ちください。実はまだお話がございまして――」
「はい、何ですか?」
まあ、分かっていたけど面倒くさい。早く終わらせたいのに。
「この度、私共の商会にお売り頂いたこれらの商品ですが、不勉強でございましてこの様な商品は今まで見たことも聞いた事もございませんでした。私共の職人に調べさせましたところ、地味ながら非常に高品質で、高度な技術で作られている一級品であろうと申しまして。普通なら高貴なお方の為に作られた一品物であってもおかしくないほどの品。しかも同様の品がこれほどの数そろっているのも圧巻であると申しておりました」
「はい、それで?」
「是非、入手先をお教え頂きたいのです」
……はぁ、やっと
長い、長い前置きのあと、おじさんはやっと言いたい事を言ってくれた。おじさんが言いたい事はだいたい分かってたし、答えは決まっているのだから、それを待ってる私の身にもなってほしい。
「ごめんなさい。あちこちで偶然、拾っただけですので」
「ですがあれ程、揃いのデザインですし」
「そう言われても――」
「では、ミラさんがあれらの品を見つけたという場所を教えて頂けませんか?」
「お教えできません」
「お望みの額をお支払いいたしますので――」
「すみません、その知識は探索者として生きていくために必要なモノなので」
「探索者を引退なさっても一生食べていけるだけの額をご用意いたしますので、どうか――」
「ホントごめんなさい」
「お待ちください、本当に、本当にお断りになるのですか?ミラさんのお申し出通り、私自らこうして参じたのです。どうか私の顔も立てて頂けませんか――?」
「会いたくないって言ったのに、使いの人がどうしてもって言うから会ったじゃないですか。これ以上は無理です」
――だって、魔法の事は絶対バレたくないのだ。製法くらいならヨーコが知ってるかもしれないが、魔法の事を話さずに入手先や製法をうまく説明したり交渉したりする自信が全くない。
たとえ儲かるとしても面倒過ぎて、全て差し引いて得か損かと言えば、私は大損だと判断する。
「……そうですか」
長い沈黙のあと、おじさんが再び静かに言葉を発した。正直怖い。
「ホントごめんなさい」
私はもう一度謝って、会議室を後にした。
だいたい最初から、尾行させたり、そのくせギルド会館とか人目のある場所では接触して来なかったりと十分いかがわしかった。
公正な取引なら人目を避ける必要は無いのだし、契約を守るつもりがあるなら最初から探索者ギルドに仲介を依頼すればいいのだ。
となると目撃者を嫌うようなそのやり方には嫌悪感しか感じない。
証人が居なければ約束など無いも同然、とばかりに奪い取る気満々だし、もっと言えば「私が死んだ時」私と会っていた証拠を残さないようにしている、そんな風にも見える。
魔法の事が無くてもお断りしたい。
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