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1 プロローグ

 私は周囲を見回しながら歩いていた。

 

 まだ昼間だが薄暗く、どっちを向いてもデカい木しか見えない。周囲には幹が太く背が高い広葉樹が文字通り林立し、その木々の上層に密集している枝葉のせいで日の光が遮られていた。

 

 少し苦手な虫よけの臭いに顔を顰める。けどそのおかげで半袖のシャツと長ズボンという軽装で歩けるので仕方がない。

 他には背中に大きめの籠を背負って、手には長めの棒――杖?を持っているくらいだ。

 

 白っぽい灰色の髪の毛は汚れていてぼさぼさで肩くらいまであり、用心の為、顔がハッキリ見えないように前髪で隠している。そのぼさ髪の中に隠した瞳は銀、肌も抜けるように白く、全身白っぽく見えるだろう。

  

「あっ、ミラじゃ~ん。何か見っけた~?」

 

「ロナ。今日はまだ何も~」 

 

 前方から同年代――10代前半の少女が現われて声をかけてくる。同じ探索者をしているロナも似たような背格好をしていた。

 

 ぼっさぼさの濃い灰色の髪は背中まである。見え隠れする濃い灰色の瞳。肌も白。装備も似たり寄ったり。シャツとズボンに籠を背負って長めの杖を持っている。

 

 だからと言ってコレが探索者の標準装備というわけじゃない。単に駆け出しで貧乏な私達でも手に入る最低限の装備がコレと言うだけだ。

 

「なんか今日、降ってきそうじゃん?ウチもう帰るわ~」


「そっか。私はもうちょい探してから帰る」


「了解、気を付けて~」


「そっちも」 


 ロナとは別に一緒に来たわけでも組んでいるわけでもないが、出身が同じ場所で同時期に探索者になった者同士で歳も近いので、見かければ声もかけるし多少、話もする、その程度の関係だ。

 ただ、他のほとんどの関係ない人達とは口もきかないので、知人以上友達未満といったところか。まあ、どうでもいいけど。


 ちなみに「探索者」というのはこの「巨木の森」を歩き回って何かしら見つけて持ち帰り、それを売って生計を立てる人のことだ。

 

 ちなみのちなみに「巨木の森」とは言っても、私達のような新人探索者が歩けるのは森の浅層のさらに外縁部――ほんの入り口付近のみなので、周囲の木々は大きい事は大きいが、巨木というほどではなかった。自分の目で見た訳じゃないが、森の木々は深部に近づくほど巨大化していくという話だ。


 私は軽くてスカスカの籠を背負い直して、宣言通り何かないか、探して森を歩いた。蓄えなどないので日々の収穫がそのまま生活の糧となる、その日暮らしのような生活を送っている。

 

 何か取って帰らないとお腹を空かしたまま寝ることになる。そういう日が続くと活力を失ってやがて森に入る事も出来なくなる。そうなれば終わりだからだ。


 だが無情にも目ぼしい収穫物どころか、何の収獲も無いまま疲労感と空腹感だけが蓄積されていく。そのうえロナが気にしていた天候がいよいよ悪化してきた。

 そしてそう思っている間に降り始めてしまった。

 

「はぁ……しょうがない、帰るか」


 そう思って、未練がましく周囲をぐるっと見回した事が功を奏した。

 

 ふと視界の端に、私の背後から襲い掛かろうとしているウサギを見つけたからだ。

 

「うわっ!?」


 ビュンッ!と来たので慌てて避けて、杖を構える。私への不意打ちを空振ったウサギは、着地すると攻撃するか逃げるか、迷うそぶりを見せた。

 

 私は、すかさずウサギの頭部に杖を振り下ろした。バシッ!ゴキンッ!と手応えがあり、足元にウサギの死体が転がった。

 

「やった、ラッキー♪」 

 

 すぐに解体用ナイフを取り出してウサギの処理を始める。全長にして40~50センチほどで、犬ほどではないがそこそこ凶悪な顎に大きく鋭い牙が並んでいる。そして最大の特徴は小型ナイフのように鋭い前脚の爪。

 もしこのウサギの奇襲が成功していたら、私は良くて即死、悪ければ大怪我を負うところだった。

 

 なぜ即死の方がましか。それは大怪我をした場合、生きたままウサギに食われる可能性があるからだ。恐ろしすぎる。嫌すぎる。

 まさしく食うか食われるか。お互いがお互いの貴重なたんぱく源なのだ。そして今の私が一人でも何とか殺せる数少ない魔物の一つでもある。同情心など湧く筈もない。

 

 私は適当な木の枝の下に穴を掘ってウサギの死体を枝先に吊るし、血抜きを行う。同時に皮を剥いで内臓を抜き、内臓は穴に捨てる。

 

 ウサギを仕留める機会は多くない。経験が浅いので思うように手際よくは出来ないが、探索者になった当初、探索者ギルドの先輩探索者に連れまわしてもらった時に一応、体験させてもらったので最低限の事は出来る。

 

 本当は肉が不味くならないように流水か冷水に晒して肉が焼けるのを防ぐのだとも聞いた。だが、近くに川なんてないので仕方ない。

 

 徐々に雨が勢いを増してきた。空は見えないのに何故か雨は遮られることもなく降って来る。もう濡れるのは諦めるしかない。出来るだけ木陰で血抜きが終わるのを待ってから、籠に入れようとして、ふと、ウサギの胸の奥に2センチほどの大きさの、宝石のような楕円の塊があるのに気づいた。

 

「え、うそ?まさか、魔石……?」


 私はドキドキしながらその塊を取り出す。魔石は魔物の体内に育つ石で、魔力を溜めこむ器官だ。そして魔石はある程度、魔物が育たないと形成されない。なので狩られやすいウサギが魔石を持っているのは割と珍しいことで、幸運と言える。何せ小さい魔石でも、魔石は魔石。売れば数日は飢えなくて済む。

 

 私は思わずニンマリと口角を吊り上げ、魔石をシャツの端で磨いた。街に戻ったら、魔石を手に入れたのを誰にも知られず魔石屋に行かねばならない。そうしないと、襲われるリスクが高まる。それを考えると自然と笑みは消え、眉が寄り、口はへの字に歪む。

 

 そのとき不意に誰かの声がした。

 

(あら、久々に人の手に渡ったのね)


 サッとしゃがんで体勢を低くしつつ、周囲を確認する。だが、誰も居ない。隠れているようで、残念ながら声がした方向もはっきりしない。つまり相手だけ私の位置を把握している、最悪の状況だ。私の生殺与奪は相手次第という事だ。

 

 さっきまで肉と魔石が手に入って、ウキウキしていたというのに、一転、命の危機とか酷すぎる。そうしている間にも、気づけば体中、雨でびしょ濡れになっていて少し寒くなってきた。

 

(待って待って、そんなに警戒しないで。敵とかじゃないわ)


 また声がした。だがやっぱり何処から聞こえるのか判然としない。

 

「だ、だったら出て来て姿を見せて下さい」


(ごめんなさい、無理なの、というか――)


 何とか交渉しようとすると、すぐに否定されてしまった。でも、ちょっと困っているような雰囲気が伝わってくる。殺意とか悪意とかは無いっぽい、のかな?――だったらいいな(涙)

 

(わたし、魔物でも人でも無いの――それどころか生きてすらいないわ)


「えっ……」


 ……まさか、お化け?でもお化けって魔物みたいなもんだよね……?

 

 私は一瞬ゾッとした後、困惑した。生きていないのに言葉を話す存在、とは?――すると、さらに声が聞こえてくる。

 

(わたしは――今、貴女が握っている「魔法石」の中に宿る魂、かな?)


 思わず私は手を開いて、魔石を見た。え、これ、魔石じゃないの?魔法石?……って何だっけ?



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お久しぶりです。2作目の投稿です。よろしくおねがいします。

今日は5話同時に、明日からは毎日1話ずつ投稿する予定です。


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読んでくれて、ありがとうございました♪

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