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最終話 Devil walks in the strawberry fields

 動物はいつも誰かに迷惑や危害を加え合いながら生きているものだとそらは言った。特に人間の場合はそれが顕著なのだと。お互い傷付けあい、たまには慈しみあい、それを繰り返しながら行き続けていくものなのだとも言った。


 なるほど。確かにその通りなのかもしれない。オレも心当たりがある。娘達はもちろん、美佐子だってオレを困惑させるような言動をすることは確かにあった。だが、オレは困惑こそすれ、傷付けられることなど一度も無かったのだ。普通の人間であれば心に傷やら負担が掛かると感じるのかもしれないが、オレはそんなことは一切無かった。それはオレが悪魔だったからだろうか。それとも別の理由があったのだろうか。


 そらが、あなたがもしも生まれ変わるとしたらどんな生命体になりたいのかと問い掛けてきた。随分と不思議な質問をする。


「随分と不思議なことを聞くな。そんな質問はそらの造成物ではなく、少しずつ進化を遂げていくこの世の生き物に聞くべきことではないのかい。」


例えばの話だとそらは答えた。


「そうだな。そんなことは考えたことも無かったが、もう悪魔はごめんかもしれないな。悪魔は高等な知恵も身体能力も持ち合わせているが、かえってそれが邪魔になることが多いのかもしれないと感じることもあったよ。


もしかしたらオレは人間になりたいと思っているかもしれない。脳みそは小さくやせ細って、体の動きはうすのろで、小さなことでびくびくするようなか細い神経しか持ち合わせていないが、その不自由さに憧れることが時々あったものだよ。能力が高い者が必ずしも幸せではないのかもしれないな。この世の中というものは」


そらの放つ暖かな光が一瞬オレの心を明るく照らしたような気がした。

最期に願い事があればひとつだけ叶えられるとしたら何を望むかと問い掛けてきた。返答するのに少しだけ時間が掛かった。


「オレが憑依していた人間の家族がずっと幸せにくらせるように、と答えたいところなんだがな。それは止めておくよ。結局オレには何が人間の幸せなのかは分からないからな。


自分で自分の命を絶つという選択をしたことが本当に家族にとって幸せなのかも疑問に感じることもある。オレが死んだ方がいいと思っているのはオレ自身の勝手な判断なのかもしれない。そらの言う通りお互いに少しずつ迷惑をかけあいながらでも行き続けていてもいいのかもしれない。天の使いの悪戯を完全に抑止することはできなくても、悪魔の力を使えばある程度調和を保って共存していけるのかもしれない。


だがオレはそんなことはもう望まない。あの家族にはそらの造成物なんかが係わってはいけないのだよ。もし叶えられるのならば、いつかこのオレのぶら下がっている神木に打ち付けてある遺書を家族に読んでもらいたいものだな」

 

そこには何と書いたのかと問われた。そらにはそんなこと聞かなくても中身を確認することなど容易であるはずなのだが、オレの口からその言葉を聞き出したかったのではなかろうか。


「ありがとう。そして、ごめんな。ただそれだけさ。何がとも、誰へとでもなく。散々悩んだ挙句、言いたいことはそれだけだったのだよ」

 

そうですか、とそらは答えてくれた。何となくそらも納得してくれたように感じたのはオレの気のせいだろうか。

 

それではそろそろ逝きましょう。返事もできなかった。何か声を出すこともできなかった。いいや。これ以上何も言うことは無かったからだろう。さようならさえ虚しい。


 さあ、全ての生命体よ。そこをどきなさい。これから天命を全うした悪魔がそらまでの道のりを歩いて進むのだから。

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