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第九十話 木の枝とロープ

「そうだな。オレとオマエはこれからもずっと一緒だな。何があろうとな。途中でオレに愛想を尽かせてオレから離れるなんてことは止めてくれよ。そんなことをされては寂しくて仕方がないからな」


「安心しなよ。キミから離れることなんて絶対ない。今のキミが憑依している人間の身体を捨てて、次の標的に移ったとしてもね。ボクとキミのどちらかの寿命がつきてしまうその日までね」


 愉快でならなかった。ヤツは思いのほか頭はよくないらしい。


「なあ。ここはいい場所だと思わないか。オレ達を囲んでいるこの木々はもしかしたらオレ達よりも長生きするかもしれないんだ。今日まで随分長い時間を過ごしてきたのだろうな。なんだか彼らに囲まれているこの空間は神秘的な匂いがするじゃないか」


「キミはこんな空気が吸いたくてわざわざこんな遠くまで来たのかい。ほとほと人間臭い悪魔だね。人間も苦痛やストレスを感じたら自然の中に身を置きたくなるものなんだろう」

 

滑稽だ。可笑しくてたまらず声に出して笑った。


「本当にオレはおかしな悪魔かもしれないな。確かにオマエのいうようにオレはなんでも人間の行動を真似する傾向があるな。今日も人間の真似事をしてここにやって来たのは事実さ。だけど、目的が違うな」


「へえ。偉大な悪魔様は今日は何をしにこんな所まで来られたのですかね」


使いは皮肉たっぷりにオレに問い掛けてきた。オレは胸を張って答えてやることにした。


「人間は時に自殺というものをすることがあるということはオマエも知っているであろう。あまりにも苦しい時、辛い時にするものらしい。オレも今そんな気分でね。どうしても逃げ出せない苦しみから逃げ出したくて人間の真似をしようと思っているわけさ」


 使いの顔色が明らかに大きく変わった。へらへらとした笑い顔は一瞬のうちに青ざめた。

オレが死ぬということは自分の死にも直結することをすぐに理解したのだろう。


ヤツは明らかに焦りを感じていた。今まで想像だにしなかったことなのだろう。オレが自死をするなどということを。オレはこれから何百年と生き続け、そのオレに憑依していれば自身の存在も安泰だと思っていたに違いない。オレ達悪魔の寿命は三百年といったところだ。詳しいことは知らないが、天の使いの寿命も同じくらいなのだろう。だからこそ、ヤツは生涯を掛けてオレに憑依するとそらに誓ったのだろう。


「馬鹿なことを言うのは止めなよ。それで駆け引きでもうっているつもりかい。ボクの命を保証してやるからこれ以上天の使いとしての仕事を止めてくれとでも言うつもりかい。言っておくけどボクはそんな脅しには乗らないし、そんな約束をしてもそれを守る気はさらさら無いからね」


「駆け引きなどしようとも思わないさ。駆け引きなんてしてもオマエは乗ってこないことも承知の上さ。何か勘違いしているようだから改めて教えてやるよ。オレは今日、これからこの場所で命を捨てるんだ。この神木を見つけに来たのもその為さ。オレはこれから数分後にこの木で首を吊って死ぬのさ。厳密には首を吊るのはカモフラージュだがね。何者かにオレの死体が発見された時に人間がひとり自殺したものだと思って貰えるようにね。いいか。悪魔というものは自分で自分を殺すこともできるのだよ。人間の身体に指令を出すのと同じように自分の身体に『死ね』と指令を出せば命を捨てることなど容易なことなのだよ。その際に痛みや苦しみが伴うかどうかなんてことはオレは知らない。しかし、そんなことはどうでもいいのだよ。結果、死ぬことが出来れば。そしてさらにオレに憑依をしているオマエを消すことが出来れば他に何も望むことなど無いのだよ」


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