第八十四話 呪いの症状
その日からオレの惨めな時間は始まった。自分のとる行動ひとつひとつに自信が持てなくなってしまった。オレのとる行動が本当にオレの意思で動いているものなのか、使いによって無理やり動かされているものなのかが分からなくなってしまったのだ。
それにやたらと臆病になってしまった。最たるものとしてはオレが悪魔であることを家族や周りの人間にばれてしまうのでないかと感じるようになってしまった。もちろん、そんなことは現実的に考えて起こり得るはずはないのだが。先々のことにやたらと怯えるようになってしまった。オレはまた大事な家族の誰かを傷付けるような行動をとってしまうのではないか。毬の顔に傷を付けた時も、美佐子の声を奪ってしまった時もまさか自分がそんな行動をとるとは思ってもいなかった。いくらオレが自制心を働かせたとしても、再びオレは過ちを犯してしまうのではないか。そう思うとオレはあまり家族の前で堂々としていることも難しくなり、書斎に閉じこもっている時間がやたらと長くなっていた。
やたらとクヨクヨすることも増えてきた。営業に出掛けても受注する回数が減ってきたような気がする。気が減っているせいなのか、何故か自分の営業成績が落ちているような錯覚に陥るようになってしまった。そんな風に感じるのであれば悪魔の力を使って営業成績を上げればいいと君は言うかもしれない。しかし、そうすることは何かオレ自身の能力が低下していることを認めてしまうようで嫌だった。悪魔の力を使わなくとももっとオレは優れた生き物だというわけのわからない、下らない見栄のようなものが芽生えてきたのだ。悪魔なのだからその力を使うことは何も情けないことではないと分かってはいるのだが。
見栄というものは心を貧しくさせる。自分自身に対して寛容ではいられなくなる。だから心に焦りが出てくる。自分していることに対して自信が無くなり、より不安が増してくる。人の目や言葉がやたらと気になるようになってきた。たかだが人間ごときにどんな風に思われようが、どんな噂をたてられようが知ったことでは無い筈なのに、やたらとそれが気になる。オレのことを悪く言っているのではないか、オレのことを嫌っているのではないかとやたら疑わしくなる。家族がオレのいないところでオレのことを悪く言っているのではないか。会社の同僚達がオレを妬ましく思って陰口を叩いているのではないか。考えてもしようもないこと、そもそもどうでもいいことがやたらと気になるようになってきた。使いがオレに憑依していると分かった日から突然そんな症状が現れた。




