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第七十六話 被害者のような顔 

 異常に気分が悪い。美佐子は正気なのだろうか。お前こそ一時の感情に流されているのではないだろうか。あまりの気分の悪さに吐き気を催した。強い怒りすら覚えた。あんなに愛おしいと想っていた女に対して。その感情を隠したり、抑えたりすることもなくオレは答えた。


「お前は本気でそんなことを思っているのか。毬にとって谷田部君と結婚することが幸せだと思うのか。毬は彼に心も体も傷付けられたのだぞ。子供を授かったと言えば聞こえはいいかも知れない。だが、毬が傷付けられたということは曲げられない事実なのだぞ。その加害者と結婚するということがどういうことか分かっているのか?相手はまだ自分に責任をとる力も無い、毬を幸せにする力も無いことを分かった上で無理やり性的行為を強要するような無責任な餓鬼なのだぞ。そんなやつと結婚して毬が幸せになれると思うか。


いいか。一度こんなに大きな過ちを犯す人間は必ずもう一度同じような過ちを犯す。あいつは女のことを考えない自分勝手な男なのだ。自分が勝手に愛した女ならば相手の都合も考えずに性行為に走ってしまうような男なんだ。そういう男は女に対する自制心が利かないのだ。将来浮気や不倫をする可能性だって他の男と比べればずっと高いのだ。そんな男を毬が結婚することをお前は望むのか。そんなリスクを考えたうえであの餓鬼と毬が結婚することを歓迎出来るというのか」

 

オレに捲し上げられて美佐子は黙り込んでしまった。とても悲しそうで、寂しそうで、どこか哀れみを含んだ様な表情をしていた。オレも非常に複雑な心境になった。おそらく美佐子は今オレが指摘したことなど深くは考えていなかったのだろう。ただ彼女は娘の強い願望を叶えてやりたいという愛情のような感覚で毬の話を聞いてやっていただけなのだろう。


「あなた今回の件については物凄く乾いた考え方をするのよね。どうしてそんなに谷田部君の悪いところだけを強調するの。なんだかちょっと前のあなたと人が変わってしまったみたい。もちろん谷田部君は過ちを犯してしまったと言えると思うわ。だけどまるっきり誠意が無いわけではないじゃない。どうしてその小さな誠意を受け止めてあげることができないの?


毬のことだってそうよ。どうして被害者目線でしか見ることができないの?毬にだって色んな考えや感情が重なって今回のような出来事を引き起こしたのではないの。毬はただの被害者ではないのよ。谷田部君と毬のふたりが同じような気持ちになって引き起こした出来事なのよ。毬の気持ちを考えずにただ被害者のような顔をするのは間違っていると思うわ」


 オレは美佐子の言うことに面食らってしまった。疑問に思う点はいくつもあった。毬が被害者ではないのではないかという点、谷田部を擁護する点、色々あるが何よりもオレに対して批判的な意見を述べる点が一番驚いた。美佐子はオレの一番の理解者なのではないか。いつでもオレの味方だったのではないのか。


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