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第七十四話 驚かないで聞いてくださいね

「今日ね。毬が学校から帰って来た時に相談を受けたの。わたしはびっくりしちゃったのだけどどうか驚かないで聞いて下さいね。


あの子、谷田部君、あの子を妊娠させた彼と結婚がしたいって言い出したの。わたしはあの子がそんなことを考えているなんて想像もしたことがなかった。ついこの間あなたがあの子が不自由なく子供を産んで育てる為に必要なことを誓約書にして谷田部君とお父さんに了承をもらってきてくれたでしょう。


わたしはあなたが書いてくれた内容で十分だと思っていたし、きっと毬も安心したし満足してくれたものだと思っていたの。だけどあの子はひとつだけ肝心なことが抜けていると言ったの。それは谷田部君が結婚できる年齢になり次第、自分と結婚することだと言うの。わたし信じられなかったわ。


だって毬は彼に心も体も傷付けられたという認識しかなかったのですから。毬自身もそう感じているものだと思っていたわ。だからわたしは毬の言うことに反対したわ。あなたはまだ若すぎるのだから。本当に愛することができる相手を見つけるのにはもっともっと色んな男性と出会って、色んな経験をすることが必要なのよって」


 毬のやつ。オレを口説き落とすのは無理であることを悟ったのか、今度は美佐子を味方につけようというつもりか。美佐子の話を聞く限り、毬はどうやらこの話をオレに何度もしたことは母親には伏せているようだ。オレもそんな話は初めて聞いたという態度で美佐子の話を聞き、返答をした。


「ああ。そうだな。君の言う通りだよ。毬の年齢ではまだ生涯の伴侶を決めるなんてことは早すぎる。おそらく毬は谷田部君のことが好きなのだろうな。それもかなり情熱的に。そうでもなければ子供をつくるなんて行為はしないだろうかな。


あの子は決して一時の感情なんかに流される考えの浅い子ではないと思うよ。だから心から彼を愛していたのだろう。だが、盲目的すぎるよな。毬も今は焦っているし、頭も興奮した状態なのだろう。しばらくすればオレ達の話も分かってくれるさ。だから君もあまり気にし過ぎないことだ」


「あなたならきっとそう言うと思っていたわ」


 美佐子はグラスのビールを再び飲み干して、空になったグラスをオレの方に差し出してきた。いつもは殆ど酒を飲まない美佐子なのだが今日はやけに酒が進む。余程毬の我儘に頭を悩ませているのだろうな、とその時は思った。オレは大きな勘違いをしていた。


「あのね。大事な話はここからなの」


改めて言うまでもないがオレは美佐子を心から愛していた。彼女の心に何か引っかかるものがあればそれを取り除いてやりたいし、望むことがあれば何でも叶えてやりたいと思っていた。


「あなたの言う通り毬はまだまだ子供だわ。それにやっぱり今は頭が熱くなっている状態よね」


 オレも手元のビールを飲み干した。美佐子はすぐにビール瓶を手に取って空になったオレのグラスにビールを注いでくれた。おそらく美佐子はどのように、何という言葉で毬を諭してやろうかを悩んでいるものだとオレは思い込んでいた。しかし、美佐子の口から出た言葉はオレの想像の範疇を超えたものだった。


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