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第七十二話 smile

 一週間後、再び三人で病院に足を運んだ。診察室の中で話もそこそこに医師は毬の顔を覆っている包帯をゆっくり外した。その下から現れた毬の顔を見てオレも美佐子も驚いた。オレが傷を付ける前の綺麗な毬の顔と殆ど変りがなかったのだ。医師もにっこりと笑って毬の間の前に大きな鏡を差し出した。そこに映った自分の顔を見て毬もまた驚嘆の声をあげた。


「これがわたし?あの大きな引っ掻き傷はどこにいっちゃったの?」


 角度を色々変えて毬は長い間鏡の中に映る自分を夢中で眺めた。そして、オレと美佐子に向かって満面の笑みを浮かべた。


「ねえ。全然傷跡なんてないよね。わたし元の顔に戻ったよね。ううん。なんか前より綺麗な顔になった気がする」


 無邪気な毬の顔は本当に可愛らしい。あの綺麗な笑顔が戻って来たのだ。オレは心底ホッとした。誰も知らないことだが毬の顔にあんなに大きな傷を付けたのはオレ自身なのだ。毬の顔の傷とともにオレの背負っていた罪まで一緒に消えて無くなった気がした。


我が娘を傷付けてしまったという後悔のような気持ちもかき消すこともできた。そして愛する娘の顔に痛ましい傷を負わせた愚かしい自分さえもまるで存在しなかったかのような錯覚に陥った。喜びに満ちた笑顔で毬は言った。


「良かったあ。この顔ならきっと文彦君も安心してくれる。良かったねって一緒に喜んでくれるよ」


 その名を聞いてオレの気持ちにほんの僅かな陰りが差したが、


「ああ、そうだな」


 それ以上は何も言う気にならなかった。今この瞬間だけは毬のいい気分を壊してやりたくなかった。


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