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第六十八話 衝撃

だがお互いが顔を見つめ合った時、美佐子が大きな驚きの声をあげた。


「毬。どうしたのその顔は!?」


綾は悲鳴を抑えるように口に手を当てていたが、驚きと恐怖がその表情からにじみ出ていた。ただ、毬だけが何が起きているのかも分からずにキョトンとしている。


どうやらオレの念は三人の記憶を消すことには成功したようだが、毬の顔を修復することはできなかったらしい。だが、それはオレの想定の範囲内ではあった。悪魔による人間の体のコントロールにはある一定の制限があることをオレはどこかで学んだことがあった。悪魔自らが傷付けたものは悪魔の念を持ってしても修復することはできないのだった。オレが毬の顔を修復しようとしたのは、このことを知った上で、ダメもとで行ったものだった。同様に悪魔がコントロールした人間の意思や意識を、再度別の方向にコントロールし直すことも不可能なのだ。つまりは、オレが消した3人の記憶を取り戻すことはいくらオレの力を持ってしても不可能なのである。


毬は美佐子に向かって不思議そうに尋ねた。


「何?わたしの顔に何かついている?」


 不思議そうな顔をしながら毬は洗面台に自分の顔を確認しに向かった。そして、自分の顔を見て大きな悲鳴を上げた。そして、母と妹のいる場所まで駆け足で戻って来た。


「何これ?この大きな傷。わたしこんなの知らないよ。誰かに付けられた記憶も無いし、どこかで顔をぶつけたり転んだりした覚えも無いよ」


誰よりも慌てふためきながら騒ぎ立てた。どうやら傷付けられた痛みも感じていないようだった。突然自分の顔に現れた傷を撫でながら叫ぶ声は震えることもなかった。もう、こんな傷が現れたことが不思議で仕方がないといった感じで。


オレは素知らぬ顔で、


「慌てるな。原因の追究は後でもいい。先ずは病院に行こう。そして、傷の手当てをして、傷跡がなるべく残らないようにして貰うことが先決だろう」


 毬の手を半ば強引に引き、家を出て車に乗せた。何も言わなくとも美佐子も綾も後に続いて車に乗り込んだ。もう時間も遅い。病院の通常の診察時間は終わっているので、夜間救急病院にオレは車を走らせた。


訪れた病院では殆ど待たされることなく外科の医師の診察を受けることとなった。診察室には家族全員で詰めかけた。毬の顔の傷を見て医師はとても驚いている。こんなに派手な傷を負わせた原因の想像もつかないと言っている。一見爪痕のようにも見えるが、人間はおろかどんな動物の爪を持ってしてもこれだけ大きな傷を付けられることは考えにくいと言う。さらに不思議なことはこれだけ派手な傷を付けられているのにも限らず、毬本人に傷を負った自覚がないということだ。何者かによって付けられたにしろ、事故によって付けられたにしろこれだけのダメージを顔に受けておいて、本人に傷を負った自覚がないことはとてもじゃないが考えられないと医師は繰り返した。しかし、本題はそこではないことを医師はすぐに気が付いたようだ。何にせよ毬のこの顔を修復できるか否かに改めて集中してくれた。だが、医師が結論を出すまでに長い時間は掛からなかった。


「傷跡を見る限り鋭利な刃物のようなもので付けられた傷だと考えられます。残念ながら傷跡はかなり深い。どんな治療をしても跡は残ります。皮膚の移植をすることで多少痕跡を隠すことは出来るとは思いますが、元のお顔に完全に戻すということは非常に難しいでしょう」


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