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第六十二話 食欲。悪魔としての

「こんにちは。何をしてるんだい?かくれんぼかな?」

 

オレは可能な限りの笑顔を作って少年に問い掛けた。少年は屈託のない笑顔で答える。


「こんにちは。でも、静かにしてね。ぼくは今隠れているの。鬼に見つかったら大変だからおじちゃん静かにしていてね」


「ごめんごめん。隠れているんじゃ静かにしないといけないね」


オレは膝を曲げて視線を少年の目の高さまで持っていった。


「でもこんなところにいたらすぐお友達に見つかっちゃうぞ。おじちゃんがもっといい場所を教えてあげるよ」


「おじちゃん。どうもありがとう。でも、鬼がもうぼくを探しているもん。今動いたらきっと見つかっちゃうよ」


「大丈夫。あのね。トイレの外じゃなくてトイレの中に隠れるんだ。そうしたら中々見つからないぞ。それにちょっと動くだけだからトイレの中に入ってもばれないよ」


そっと少年の手首を握りながらオレは小声で囁いた。少年は目を輝かせながら、


「そうかあ。おじちゃん頭いいね。ありがとう。じゃあ静かにトイレの中に隠れているね」


「おじちゃんも一緒に隠れよう。君は偉い子だね。ちゃんとお礼が言えるんだものね。いい子だ。名前はなんて言うんだい?」


「ぼく薫。立花 薫。おじちゃんの名前は何ていうの?」


「おじちゃんの名前は生馬だ。じゃあ薫君。一緒に静かにトイレの中まで移動しようか」


オレはそっと周りを見渡し、誰もこちらを見ていないことを確認してから薫の手をとって便所の中に身を潜めた。


何故オレは少年の名など尋ねたのだろう。何故自分の名前など名乗ったりしたのだろう。もうオレはイライラなどしてはいなかった。

 

便所の中にはオレ達ふたりしかいなかった。そして、ここに近づいてきそうな男も皆無だった。便所の中に入ってからの薫はとても嬉しそうに、にこにこしていた。


「生馬おじちゃん。なんかドキドキするね。ここなら唯人君にも見つからないね。いい場所教えてくれてありがとうね


「薫君。お礼なんていいんだよ。いや、お礼を言わなくちゃいけないのは生馬おじちゃんの方なんだからね」


 心を込めてそう言ったつもりだ。その直後、薫の腹を殴りつけた。それもかなりの力で。拳を伝って薫のあばらが何本か折れたのが分かった。その時にはもう薫は意識を飛ばしていた。そして薫の首を掴んで便所の個室の中に引きずり込んでドアを閉める。意識を無くしてうな垂れている薫の服を手で引き裂いた。薫の前ではできるだけ紳士的に振る舞ってきたつもりだが、オレはもう溢れ出てくる感情を抑えきれずに先程までの笑顔とは全く種類のことなる笑みを浮かべながら薫の着衣を剥ぎ取ることに夢中になっていた。


それが終わった直後、オレは歯をまるで虎の牙のような形に変形させて、それで薫の首元にかぶりついた。薫の首は小さくて細くて一口でその半分は無い。オレの牙がむしり取った首の肉の下から更にか細い骨が姿を見せた。オレをそれを木の枝を切るかのように片手でへし折った。途端に薫の頭はだらりと左に大きく傾いた。右の拳で思い切り頭を上から叩く。頭の骨は簡単に砕けその中の脳が溢れ出そうになる。それを僅かにも溢してしまうのは勿体ない。やはり動物は脳が一番旨い。人間の身体は全てが美味だと言うわけではないが肉も骨も血液も全て平らげなくてはならない。薫の存在を全てオレの胃の中に隠してしまわなければならないのだから。

 

何故こんなにも急に人間を喰らいたかったのだろう。十分に腹を満たした後、オレは我ながら不思議に感じた。人間生馬に憑依してからこんなにも人間の肉を欲したことは一度も無い。今までに喰った人間は会社の支店長の娘の心音だけだ。しかもあれは事故みたいなものであった。オレが悪魔であるという事実をあの娘に知られてしまった為やむを得ず、オレの腹の中に始末しただけのことだ。決して食欲を抑えきれなかった訳ではない。


だが今回は違う。オレは薫を一目見た時からその肉体を喰らいたいという欲望を抑えきれなかったのだ。深く考えても仕方がないことは分かっている。オレは悪魔なのだ。人間の肉体を喰らいたくなることも決して不自然なことではないのだ。だから何故こんなことをしてしまったのかを考えるのは止めにした。しかし、気分は決してよくはなかった。オレは薫を最初に見た時はとても可愛らしい子供だと思ったはずだ。他人の子供であってもやはり幼い子供は愛らしいものだと感じたはずだ。あまりの可愛らしさに喰ってしまいたいと思ったのか。腹は十分に満たされたが、心の方は逆に大きな穴でも開いたかのように空虚なままでオレは公園を後にすることにした。


確か唯人と言っただろうか。薫とかくれんぼをしていた相方は友達を見つけることができずに半べそをかきながら公園の中をウロウロとしていた。いっそのこと唯人も喰らってやろうか。ほんの一瞬そんな考えが頭を過ったが、それは止めておいた方がいいとまるで別人のように冷静なもう一人のオレがその欲求を制した。


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