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第五十八話 排除の願望


「実は最近不思議な現象を体験したのだよ。オレ達悪魔は人間の脳に直接刺激を与えてその思考を操ることができるはずであろう。今まではずっとその能力は効果的に働いてくれた。しかし先日、その能力が効果を発揮しない相手がふたりほどいたのだ。ひとりは娘の同級生の父親だ。娘はその同級生に妊娠させられ若年での出産という荊の道を歩むこととなった。その責任をとって貰うべくオレはそいつに誓約書に署名するように指令を出したのだが、中々そいつはオレの指令通りに動かない。何度目かの指令でなんとか言うことを聞かせることはできたがね。こんな体験は初めてだった。これまで数多くの人間の脳や体に色々な指令を出してきた。中にはもちろんもっと厳しい指令を出したこともあったさ。体の一部を破壊したりね。それですらオレには他愛のないことだったのに。何故その父親にだけ悪魔の能力が利かなかったのか不思議でならなかった。


ふたり目はオレの娘だ。娘は自分を妊娠させた男と結婚したいと言って聞かなかった。だからオレは娘の脳にそれを諦めるように指令を出した。ところが娘は自分の男に対する気持ちや男が娘に語りかけてくるつまらぬ愛の言葉や態度をオレに伝えようとするだけで全くオレの指令に従わない。先程の父親の場合には何度目かにして明らかにオレの能力が発揮されたと思われるが、娘の場合はそれすらも疑わしい。オレの能力云々では無くただ娘が自発的に身を引いただけではないかと疑いもするのだ。そらよ。オレは悪魔としての能力が他の悪魔より劣っているのか?それとも少しずつ能力が衰えてきているのか?」

 

切実に問い掛けるオレに向かってそらは穏やかに答えてくれた。そんなことはない。決してオレが悪魔として能力が劣っているわけではないし、徐々に能力が低くなっている訳でもないと。人間というものは時に大きな意思や決意を示すことがあると言う。その力は誠に甚大で時に悪魔の指令をもはねのけることがあるのだと言う。しかし、結局は悪魔の持つ能力の方が上であるので、諦めずに何度も同じ指令を下していればいつかは悪魔の力の前にひれ伏すことになるのだと言う。たまたまそう言った稀有な事例が重なっただけで、決して悲観することはないとそらはオレを励ましてくれたのだった。なるほど、そういうことか。確かに谷田部父にしろ毬にしろオレは相手の気持ちを無理やり捻じ曲げるような指令を出してきた。人間の意思というものはオレが思っている以上に力強いものなのかもしれない。しかし、結局は悪魔の能力の方が上であり、オレが悪魔として劣っているわけではないと聞かされて安心もしたし納得もした。


 そしてオレはもうひとつの願いを思い切って空に打ち明けることにした。


「そらよ。実はオレの大切な家族に天の使いが憑依しているのだ。オレも天の使いのことは多少は理解している。ヤツらは主に人間に憑依して人間を傷付ける存在だと理解している。それは一見人間を幸せにする行為であるかのように見えるが、結果的に人間を追い詰めるという非常にやっかいな攻撃だ。オレの娘に憑依している天の使いも例外ではない。ついこの間も娘はヤツのせいで心にも体にも大きな傷を負わされた。ひとつの家族に悪魔と天の使いが存在しているというのは非常にやりにくい。正直に言うがオレは天の使いというものが非常に苦手だ。どうだろう。誠に無理な相談をしていると思うがオレの娘に憑依している天の使いを排除してもらえないものだろうか」

 

天の使いが誰に憑依しようがそれは自由なことである。オレの願いは誠に勝手な申し出だと理解していたが、こんな願いを叶えてくれる可能性がある存在はそらだけである為、オレはダメ元でそらに願いを打ち明けた。

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