第五十話 約束
オレは今日、出来るだけ悪魔の能力を使うことなくこの親子と真正面から向き合うつもりでここへやってきた。しかし、そんなことはもう馬鹿らしくなってきた。全く的外れなことを懸命に述べる馬鹿な父親と、なにひとつ真実を語ることのできない馬鹿な息子。正直何故こんな馬鹿息子にうちの毬が惚れてしまったのか不思議で仕方なかったが今はそんなことを言っても始まらない。
こんな低俗な人間とまともに話をしたところで、得るものはなにも無いと感じたオレは遠慮なくこいつらの脳を操らせて頂くことにした。
まずは文彦に毬と愛し合ったことを認めさせた。あくまで毬を愛していたからこその行為だったと語らせた。さらに行為はお互いの合意のうえであったことは確かだが文彦の方からやや強引に迫ったものであると述べさせた。事実と異なるか否かは関係なかった。あくまでこちらの都合の良いような内容の話をさせた。もちろん文彦の本音やふたりが結ばれた日の事実の全てを引き出すことは容易なことではあったが、オレは敢えてそうしなかった。
そして次は父親の脳をいじくり、息子の話した全てを受け入れさせて、そして謝罪をさせた。一連の面倒くさい作業を終えてからオレは口を開いた。
「今伺った話だとお宅の息子が大分強引にうちの娘に迫ったということで間違いないのでしょうな。その行為を行うことでどのような結果が生まれるのかもよく理解していなかったようであるし、その結果に関して責任を持たなければならないという覚悟もなかったのでしょうな。つまりは容易に我が娘に手を出したわけだ。当然こちらとしてはそちらに覚悟があったのか無かったのかなんてことは関係ない。きちんと責任をとって貰わなくてはならないわけだ。これから私はいくつかのことをあなたがた親子に要求をする。それらを全て責任を持って受け入れる覚悟はもうできているのでしょうな」
「もちろんでございます」
親子は全く同じ台詞を同時に口にした。まあ、オレの力をもってしてのことなのだが。
毬はその会話に全く口を挟むことはなかった。毬がそうしなかったということは、オレの力の影響はあったとしても、文彦が語る言葉に大きな誤りは無かったということなのであろう。谷田部親子に全ての責任をとらせると言ったオレの言葉にも横槍を入れることは無かった。半ば強引に抱かれたと自覚しているからだろうか、それとも谷田部親子に多少の負荷をかけてでも優位な条件で我が子を産みたいと思っていたからだろうか。
ただずっと静かに文彦の顔を見つめるばかりだった。その目はオレの知っているいつの毬よりも力強い光を放っていたが、どこか悲しそうな色を帯びていた。それも仕方のないことだろう。目の前にいる自分の愛した男は今こんなにも小さくて醜い存在なのだから。




