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第四十九話 愚かな親子

「お前は一体なんてことをしでかしたんだ!」


オレと毬の前であることなど全く気にする様子も無く父親は息子の横っ面をでかい音がするくらい激しく殴打した。


オレと毬は夕方十九時半に毬の腹に種を植え付けた谷田部 文彦の自宅を訪れていた。今夜、自宅を訪問することは毬から文彦に伝えてあったが、用件やオレも同席することなどは敢えて伏せておいた。文彦の父親が何時なれば在宅なのかも事前に確認しておいた。文彦にしたらもしかしたら話の内容がある程度想像ついていたのかもしれない。父親が十九時には帰宅するということだったので、若干の余裕を見てこの時間に訪問することにしたのだ。谷田部父はオレ達が思っていたよりも早く帰宅していたのだろうか、オレ達が彼の自宅を訪問したときには既に少し酒に酔っているかのようだった。ほのかに赤い顔をして遅い時間の突然の来客をあからさまに鬱陶しそうに家に招き入れた。だが、彼がほろ酔い気分でいられるのはオレが訪問の趣旨を伝えるその瞬間までであった。


オレが用件を伝えると途端に彼の顔色は青くなり、そして自分の息子の顔を殴打するという事態に至ったわけだ。息子の顔をあんなにも激しく殴打したのは余程息子に対して怒りを感じていたのだろう。しかし、オレにはそれとは別の理由があるように思えて仕方がなかった。オレ達をも威嚇するような意図があるように思えたのだ。彼にしてみれば自分はこんなに恐ろしい男なのだぞと思わせたいような。事実、毬の顔には怯えの色が濃く現れていた。毬は小さく震えていた。それを少しでも緩和させてやるべくオレは毬の手をそっと握った。


青いポロシャツ姿の親父は大声で文彦にたたみかける様に問いただした。


「間違いないのか。お前は本当にそんな愚かな行為を人様の娘に行ったのか?!」


文彦は何も答えることが出来ずその場に立ち尽くすのみだった。今のオレも人のことを言える程立派な体格はしていないが、この小太り中年はオレを苛立たせる要素は余りあるほど持ち合わせていた。その容姿、声の質やそのむやみな大きさ、喋り方、数え上げればきりがないがオレは一番腹の立ったことを包み隠さずその男に伝えてやった。言葉遣いも話し方もなにも相手に気を遣うことなどなかった。


「ちょっと待ってくれ。お宅の息子がうちの娘にしたことは愚かな行為なのか?わたしはふたりが愛を確かめ合う神聖で尊い行為だと思っていたのだがそれは間違っているのか?」


谷田部父はオレを激しく睨みつけて言った。それが酒の力によるものなのか、この男の実態なのかは知ったことではないが。


「愚かな行為に決まっているでしょう。そりゃふたりが成人にでもなっていれば話は別だ。だが、ふたりはまだ未成年だ。それどころかまだ高校生だ。そんなふたりが性行為に及ぶなんてわたしには信じられない。これが愚かと言わずとしたらなんと言ったらいいんだ」


男は大分興奮していたようだった。だがオレは眉ひとつ動かさずに答えた。


「だからふたりはただ愛し合っただけなのだろう。それとも何か?お宅の息子は愛情さえ無いのにわたしの大切な娘を性欲の捌け口のように扱ったと言うのか?それならそれで、こちらにも出方というものがあるのだが」

 

オレの言葉に男は押し黙るのみだった。しばしの沈黙の後、醜悪な男は顔をしかめたまま再度息子を怒鳴りつけた。


「文彦。どういうことなんだ。きちんとお前の口から全てを説明しろ!」


文彦は何も語ることができずにその場に立ち尽くしたまま。誠に愚かな親子だ。父親は自分の主張だけを大声で叫び、都合が悪くなれば息子にバトンを押し付ける。その息子はといえば自分の行った行為に責任を持つどころか説明のひとつもできないときたものだ。


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