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第四十四話 告白

 さて、オレにはもうひとつやるべきことが残っている。オレは二階に上がり毬の部屋の戸を叩いた。


「毬。オレだ。中に入るぞ」


返事は無かったが、オレは部屋に上がり込み学習机に向かっている毬を見つめた。毬も黙って見つめ返してきた。その顔は美佐子のそれとはまたどこか違う不安そうな顔をしていた。

 

オレは毬に向かってお前は子供ができたのか、子供ができるような行為を行ったのか心の奥底で問いかけた。毬はオレの目の前まで歩み近づいて来た。そして目に涙を浮かべながら語りかけてきた。


「お父さん。ごめんね。びっくりしないで聞いて欲しいの。わたしね、学校に好きな人がいるの。文彦君って言うんだけどずっとその人のことが好きだったの。こないだね、文彦君から一緒に帰ろうって誘われて帰り道の途中で今日文彦君の家には誰もいないからちょっと遊びに来ないかって誘われたの。文彦君の部屋に通されて最初は話をしたり、一緒にDVDを見ていたりしたんだけれど急に文彦君にキスをされて。そして着ていた制服を少しずつ脱がされたの。ちょっと怖いなって思ったけど、相手が文彦君なら大丈夫って思った。


わたし、どうしていいかのか全然分からなかったけど文彦君に言われるままにしていたら、そのままエッチしちゃったの。その時は頭の中がいっぱいで何も気が付かなかったけど、文彦君避妊もしていなかったみたい。それからご飯が食べられなくなって、気持ち悪くなることが多くなって。もしかしたらって思ってこの間薬局行って妊娠判定薬を買ってきて自分で確認してみたの。そしたら結果は妊娠しているって。


ねえ。わたしどうしよう。赤ちゃんを授かったけど、自分で育てる自信もないし、その子を幸せにする自信も無い。周りの人から何て思われるのかも怖いし、こんな話お母さんにすることも怖いし。だけど子供をおろすのはもっと怖い。だってそれって人をひとり殺すことだもんね。自分が悪いことをしたってことは分かっているけどこれからどうしたらいいのか分からないの」

 

毬は泣きながらオレの胸の中で肩を震わせながら泣き続けた。そうか。毬が妊娠しているかもしれないという美佐子の予想は当たっていたのだな。オレは毬からこの事実を聞いたことを無かったことにするべきだと判断し、毬の記憶を消し、そして眠りにつくように彼女の脳に指令を出した。毬はふらふらとしながらベッドに寝そべり数十秒で眠りの世界へと堕ちて行った。


 賢明な君達ならもう理解しているだろうが今回のことは毬の意思のみで行った行為ではないことに間違いはなかった。オレは毬の身体の上を目を凝らして見つめた。そこにはいつもと変わらず気持ちの悪い舞を舞っている使いの姿が現れる。どこかいつもより不気味で満足そうな笑顔をしているようにオレの目には映った。


「おい。天の使いよ。どうやらまたオレの娘に面倒な災いを振りかけてくれたようだな」


「災い?失礼だな。ボクが彼女にもたらしたのは幸せというものだろう。彼女は愛している男と結ばれることが叶った。人間の女性なら誰もがいつかは望む妊娠というものをさせるきっかけを作ってやっただけだよ」


ヤツは目を細めて微笑みながら続ける。


「それにしても彼氏に抱かれる直前のキミの娘の色っぽさと言ったらなかったよ。何しろ自分でブラウスのボタンを外して、スカートを脱いで腰を彼氏の膝の上で振り続けているのだものね」


 オレはカアッと頭に血が上り手でヤツを掻き切ろうとしたが、やはりそれは空振りに終わった。その時のオレの表情は完全に悪魔の顔に戻っていた。


「アハハハ。キミって本当に学習しないんだね。悪魔ごときがボクを掴まえることなんて無理な話なんだよ。それにしても血も繋がっていない小娘の為にそんなになって怒るなんてね。悪魔っていうものは随分と心が脆いものだね。それとも悪魔の中でもキミだけなのかな。こんなに情け深いのは」


 オレだってそんなに馬鹿ではない。すぐに冷静さを取り戻した。だが、ヤツに対する怒りというか苛立ちが消えた訳ではもちろんない。


「今のうちに好きなことをほざいていろ。必ず近いうちに貴様の首を綺麗に切り落としてやるからな」


「キミこそどうぞお好きなようにのたまっておきなよ。ボクがキミに掴まったり、ましてや命をとられるなんて有り得ないことなんだから。それともキミのご執心の娘さんでも殺してみるかい。ボクら天の使いは憑依している動物が死ぬとこの身が爛れて命を失うんだ。でも、実際にそんな風にこの世から消えるものはいないけどね。憑依している動物が死ぬ前に別の動物に乗り移ればいいのだからね。でも、もしかするとキミの鋭いスピードならボクは無理でも人間の少女くらい瞬時に殺せるんじゃないのかな」

 

ヤツは口角を上げながらニヤニヤと笑いながら語り続けた。


 ヤツにはオレの心でも読めているのだろうか。普通悪魔に対してこんな挑発的な発言などできるはずはない。確かにヤツの言う通りオレが毬を殺すことなど誠に容易いことなのだから。自分の命に係わるほど重要な情報を漏らすわけがないのだ。それでもヤツが飄々と語る理由。オレが毬を殺すことなど絶対にないと確信しているからだ。毬に限らず美佐子、綾も同様にオレが手を出すはずがないことを把握しているのであろう。


オレがこの家族に対して強い執着を持っていることを読み切っているとしか思えない。使いという存在はオレが思っていた以上に厄介な生命体であるようだ。


 オレはヤツを見つめることを止めて一度目を瞑った。再び目を開くと、そこにもうヤツの姿はなかった。これだけがせめてもの救いだ。オレが見ようしなければ、ヤツの気味の悪い舞を見ることも決してないのだ。

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