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第四十一話 転移

 こんなに悪質な悪戯をするのはすべてヤツで間違いなかった。その日の夜オレは使いに一言言ってやりたくなり、綾の部屋へと向かった。しかし、いつも綾の上で舞を舞っている奴の姿が見えない。もしかして彼女への憑依をやめてくれたのかもしれない。しかし、オレの心の中は


「そんなに甘いものではない」


という疑念の心が殆どを占めていた。オレはヤツの転移先として最悪と思われる場所を訪れた。隣の部屋へ移動すると、オレの最悪のシナリオと同じ場所にヤツはいた。ヤツは何事もなかったかのように毬の上で舞を舞っていたのだ。オレはうんざりして吐き気さえ催した。正直、毬に転移するくらいならまだ綾のもとにいてくれた方がマシだと思えた。綾はまだ子供だ。その世界も狭い世界で生活しているだけだから今回の携帯の件も被害が小さくて済んだのかもしれない。毬はと言うともう高校生だからそれなりに行動範囲も広い。それ故に様々な危険に合わされるリスクも高いのだ。オレは使いに襲い掛かりたくなったが、それも虚しいと気が付きヤツに声を掛けた。


「どういうことだ。なぜ標的を毬に変えたんだ」


「どうも見ているとこっちのお姉ちゃんについていた方が色んな所に連れて行って貰えそうだしね。妹ちゃんの方は少し行動範囲が狭すぎると思っていたから丁度よかったんだ」


最悪の返事である。オレの予想通りヤツはさらなる悪事を展開するために毬に転移したのだ。オレは情けないことは十分承知の上でヤツにすがってみた。


「なあ、天の使いよ。お前の恐ろしさはもう十分に分かった。お前に憑依されると悪魔の力を持ってしてもどうにも対抗できないよ。頼むから他へ行ってくれないか。オレはお前の姿が見えるから余計に恐ろしく感じてしまうのだよ」


「そうはいかないよ。ボクらにも憑依したい人間とそうでない人間とがいるんだ。清廉潔白な人間の方が一緒にいて気持ちがいいんだ。悪戯をした時の周囲の慌てっぷりが見ていて面白いしね」


オレは急騰した怒りに任せて使いに殴り掛かった。しかし当然のようにその攻撃は使いにかすりもしなかった。頭の上からヤツに言われた。


「君もそれでも悪魔だろう。一緒に人間の欲の突っ張ったところを見て楽しもうじゃないか」


残念ながらオレには人間が欲の突っ張った生き物だとは思えない。正確には愚かしいとは思っているが、欲ばかりが先行しているとは思えないのだ。欲をコントロールできないのは憎き使いのせいだと思っていた。


「必ずお前をこの家から追い出してやるからな」


オレは吐き捨てるように言い残し毬の部屋を出た。ヤツが毬に対してどんな嫌がらせをするのかを想像するのも嫌になっていた。


自分の寝室に戻るとそこにはベッドの上に座り込んでいる美佐子がいた。


「どうしたんだい?」


できるだけ優しい言葉をかけたつもりだ。


「綾のことなんだけど携帯を黙って買ったり、承諾書を勝手に作ってそこに勝手に判子を押すような子ではないと思うの。何かに悪い影響を受けているんじゃないかと思うと気が気じゃなくて。私たち夫婦もあの子の不安や不満を拾い上げられていないということは両親失格よね」


オレは美佐子をギュッと抱き締めて言った。


「美佐子はちゃんと母親をしているさ。仕事にかまけて親の務めができていないのはオレの方だ。あまり自分を責めるのは良くないよ。綾だってそういう年頃なんだよ。君も言ってたじゃないか。年頃のせいなんだって」


彼女は以前に述べた自分の意見にも後押しされて少し前向きになったようだった。


「そうね。綾ももうそんな年だもんね。携帯のひとつくらいは欲しくもなるわ。それも突然、目の前に三万円も現れたんじゃ」



彼女はじっとオレの方を見て言った。へそくりをしていたのがオレだと勘違いしているようだった。まあ、いい。彼女が元気を出せば。そう割り切りながらもオレは真っ直ぐに彼女の方を見ることはできなかった。

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