第四十話 着信
そのことを確認すべく、深夜に綾の部屋に乗り込んだ。
「使いよ。聞こえているのだろう」
ヤツは全く反応しない。仕方がないのでオレはその場で話を続けた。
「オレの娘がオレたち両親に黙って携帯電話を購入していた。お前が何か関係していることと思うがどうだろうか」
すると使いはオレをあざ笑ってこう言った。
「ボクはただ本棚に誰かのへそくりがあるよ、携帯電話欲しかったんだろう。これで買えるじゃないか。と彼女の耳元で囁いただけさ。結果的に携帯を買ったのは彼女の判断さ。ボクには人間の行動を操作することなんてできないからね」
オレは両手を鉤爪状にして使いに襲い掛かった。攻撃は相変わらず空を切ったが。
「貴様がやったことは間接的に人を操ったって言うんだよ。いいか、今後は余計なことはするなよ。余計なことをすれば今度こそお貴様を掻き切ってやるからな」
「できるもんなら勝手にどうぞ」
使いは全く悪びれる様子もなかった。悔しいがオレにはこれ以上できることは無いことをオレは知っていた。三万円のへそくりはおそらく人間生馬のものであろう。全く余計な遺産を残してくれたものだ。
それにしても天の使いというものは思った以上にやっかいなものだ。へそくりの位置を綾に教えたり、携帯を買わせるように誘導まで出来るのだから。オレは少しヤツを舐めていたのかもしれない。
それからしばらくの時間が過ぎたある日、綾が真っ青な顔をしてオレのところにやってきた。
「お父さん。変な人から電話やメールが来て止まらないの」
誰かに綾の個人情報が洩れたのだろうか。しかし、人間の世界の機械というものにはオレは全くと言っていいほど疎く、何をどうしたらいいのかさっぱり分からなかった。オレは綾に問うた。
「そいつからの着信をロックすることはできないのか?」
「メールはロックできると思うけど電話の方は止められないみたい」
オレはこの人間の持つ携帯電話というものが大嫌いだった。こっちの都合も鑑みず、ピーピーピーピーと鳴りやがる。仕事が終わった後でも、休日の時でも場所も時間も関係なく鳴りやがる。オレが着信のロックの仕方を知っていればとっくにやっているだろう。この携帯電話というものはシステムがかなり複雑で特定の電話番号を着信拒否しようとなると相当な知識が必要だと思われる。しかも、綾の話によると電話をかけてくる男は公衆電話を含めて3~4種類の電話を使用してアクセスしてくるらしいので余計に複雑であった。
さらには、SNSなるものを使用して綾に近づいて来ようとしているらしい。綾は多少ためらったが全てを美佐子に話し協力を得ることにした。しかし、美佐子も機械には明るくないらしく、不審者からのSNSへの侵入、着信を止めることはできなかった。こうなったらもうオレ達には選択の余地は殆ど残っていなかった。
金を払ってでも携帯会社に設定を変更してもらうか、携帯を解約するかのいずれかだった。三人で話し合ううち、綾がこんなにも恐ろしい思いをする携帯なんて解約してしまおう、ということになった。携帯の契約は二年間で機械代を償却する仕組みになっており二か月弱しか携帯を使用していない綾は殆ど全額機械代を請求された。まあ、人間生馬がためておいたへそくりで何とか全額支払うことはできたが。こうして恐怖だけを残して綾の携帯ライフは幕を閉じた。




