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第四話 輪廻転生の仕組み

 男の名前は狩野 生馬。年齢は三十九歳。血液型A型。身長百七十七センチメートルの体重は七十六キログラムだ。見た目はいいとも悪いとも言えないどこにでもいる中年男性だ。視力が悪いがメガネはかけておらずコンタクトレンズを使用している。

 

生馬の家庭は所謂中流家庭で妻の他に十六歳と十三歳の娘がいる。練馬にある住まいは3年前に購入したマイホームである。四LDKのその家は築8年で割と近代的な造りをしていた。生馬はこの文房具メーカーの埼玉支店に勤務しており、練馬に住むようになって三年になる。ここに来る前は大阪支店にいた。

 

さて、そろそろ本題に入ろう。何故オレがこんなにもこの男のことを詳しく知っているかと言うと、ここ三ヶ月程度男を観察させてもらっているからだ。何故観察しているかって?近々オレはこの男の体を乗っ取ることになっている。オレが乗っ取ったときに周囲に中身が変わったことをそう簡単に見破られないようにこうして生馬のことを観察しなければならないのだ。オレは君達人間でいうところの悪魔だ。多くの人間からすれば、


「何を馬鹿なことを」


と笑いながら一蹴されそうなものだが、事実なのだから仕方がない。悪魔というものは何もオレひとりに限った訳ではないのだ。日本には約百二十匹の悪魔がいる。日本の人口が約一億二千万人だとすると百万人に一人は悪魔がいるという計算になる。なんの為に存在しているのか?それはオレにだって分からない。君達人間だって何故自分が存在しているかなんて知らないだろう。他の動物達にだって同じことが言える。ライオンは何故存在しているか?蟻は何故地球上に生まれてきたのかなんてきっと彼ら自身も考えたこともないはずだ。まあ、敢えて言えばそらがオレ達を造ったからこの世に存在しているのだ。それは人間だって同じこと。全ての生き物はそらが造ったからこの世に存在している。そらとは何かって?本当に君達人間と言うものは何も知らないで生きている。そらとはこの世の生き物の造り主であり、生きて行くためのエネルギーを与えてくれる存在だ。生きていく為のエネルギーの源であることは知っているだろう。君達の言う「空」または「太陽」といったものと同じ意味である。ところが、太陽というものもひとつの生命体でありそらが生み出したものなのだ。だからそらの中に太陽が含まれていると言った感じだ。


そらのもうひとつの主な仕事、生物の造成である。人間は猿から進化したものだって学校で習わなかったかい。どうして人間になったのか。木の上の生活からより暮らしやすい地上への生活に対応するために二足歩行になり、背筋を伸ばし、指を器用に操れるように細長くした。猿たちは環境の変化に対応するべく少しずつ理想の人間像に近づくように心掛けた。まあ、そう意識はしていなかったろうが、自然と地上生活への対応をしていったのだ。そして、そうした猿の一匹が死亡する。しかし、進化したいという思念は君達のいう魂のようなものになって残り、次に生まれてくるときはほんの少しだけ理想の人間に近づいて生まれ変わってくる。人間になりたいという思いが死後にも残って、来世の自分に反映されるわけだ。そらはその時の人間への近づき加減を調整して輪廻転生させる。ただ、そらにも気まぐれなところがあって、猿が輪廻転生して再び猿になるとは限らず、ねずみになるものがいたり、魚になるものも存在する。これが、おおざっぱだが生き物の生命の繰り返しの原理だ。


その塩梅を調整するのがそらの役目ってわけだ。何となくでも理解できたであろうか。そしてそらはある特定の個体に使命を授けることがある。我々悪魔が人間に憑依するというのもその一例だ。全ての悪魔が人間に憑依するわけではなく、他の動物に憑依するように指示されるものもいるのだが、約九十パーセントの悪魔が人間に憑依ように指示をされる。そこで何をするかは、さらに細かい使命が与えられる者とそうでない者に分けられる。ちなみにオレはそうでない側の悪魔だ。憑依することは指示されているが、そこから先は自由なのである。オレ達悪魔の寿命は約三百年だが、同じ人間に300年も憑依し続けることはできない。人間の寿命はオレ達より遥かに短いのだから。一度憑依した人間の身体で適当な年月を過ごして、その時になればその身体を乗り捨てる。そして再び今のように闇に潜む生活に戻る。そして、またそらからの指示を待って、指示が下れば新しい人間に憑依するという塩梅だ。


つまり、生馬として何年生きていくかなど決めてはいないが、人間の平均寿命を考慮すると約四十~五十年は生馬の皮を被って生きていかなくてはならないのだ。その間オレは何をしよう、と考えるのが最近の日課になっている。まあ生馬の大好きな「有難うございました」「すみませんでした」「申し訳ありません」はなるべく封印したいと思っている。仮にもオレは悪魔なのだ。人間のような小動物にぺこぺこ頭を下げるのも癪にさわる。ただ人間狩野生馬として生活していくのに最低限頭を下げるのは仕方が無いとしよう。オレはどこかで生馬に憑依することになったことをついていないと感じている部分もあったが、見ている限りでは人間というものは個体差はあっても頭を下げるというのはどいつもこいつも同じようにしているようであるのだし。


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