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第三十二話 怒りと憐れみ

 次の朝、出勤するとそこには志茂田の姿はなく、始業のチャイムがなっても姿を現すことはなかった。オレはわざとらしく藤井に昨日の顛末を聞いた。


「おい、藤井。昨日志茂田さんあの後どうなったんだ」


「目が痛いっていつまでも叫んでいるから仕方なく救急車を呼びましたよ。何故か僕が同伴させられて。藤井、なんとかしろとか言われてもう最悪でした」


「それで、病院行って見えるようにはなったのか?」


「多分良くなってないと思いますよ。僕も最後までは付き合わずに途中で帰りましたから詳しいことは分かりませんけど」


「お前も薄情なやつだな」


「それ、絶対に生馬さんにだけは言われたくないですよ。志茂田さんがめっちゃ痛がっているときに何も気にせず帰ったじゃないですか」


「それについて誰か何か言っていたか?」


「井上さんが羨ましいって。あの人も志茂田さんなんかどうでもいいから早く帰りたかったって言っていました」


「ところで支店長は?」


「今日はお休みらしいです。心音ちゃんもまだ見つかっていないそうですよ」


「そうか。早速だが出掛けるぞ」


ふたりで車に乗り込みオレは携帯電話を取り出して電話を掛けた。相手は吉本支店長だ。


「支店長ですか。生馬です。今日はご自宅でゆっくりなさって下さい。大丈夫ですよ。こういう時こそ部署一丸となって会社を守って見せますから。ところで支店長、今日はどのようなご予定でした?先方も待っていらっしゃるでしょうからオレが訪問してきます。支店長のようにはいかないかもしれませんが、何とか話をしてきますよ」


吉本さんは小声でボソボソと返事をした。


「はいはい。分かりました。注意します。それでは支店長。夕方には吉報入れられるようにしますので待っていて下さいね」


「支店長ですか?」


「ああ。今日は青道文庫というところに行く予定だったらしい。先方は新規顧客だが、国道沿いにある大型店舗らしい。ここは文房具は他メーカーで一括購入しているらしいが、支店長の努力で一部だけでもうちの製品を取り扱ってもらえるようにお願いしているらしい。オレ達が何か受注して、青道文庫に食い込んでやろうというのが今日のミッションだ」


藤井が驚いた顔で答えた。


「青道文庫ってめちゃめちゃ大きい文具店じゃないですか。支店長もあんなところに営業かけるなんてさすがだなあ」


大分感嘆していた。オレは何も知らないがそんなに大口の取引が見込める顧客なのか。


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