第三話 ゴルフ
さて次の日。今日は男は昼間から会社にいて何やら会議に出席している。昨日の、
「有難うございました」
の代わりに今日はひたすら
「すみませんでした」と
「申し訳ありません」
を交互に繰り返している。何が申し訳ないのかはよく分からないのだが。どうやら男は上司というものであろうふたりにぺこぺこ頭を下げてばかりいる。そして最後には「来月は頑張ります」と繰り返す。ああ、そうか。来月もまた取引先に行って、
「有難うございました」
を繰り返す訳だ。それも今月よりも頑張るというのだから男は余程多くの人間に感謝をしなければならないのだろう。外に営業活動に出ても、社内会議に出席してもたえず頭を下げ続けるこの男にはある意味脱帽した。ここまで頭を下げ続ける営業マン。どれだけ出来が悪いのかと問われればとんでもない。この男こそがこの小泉文具という会社のこの支店での売上ナンバーワンの成績を誇る超が付く程のエリート社員なのだ。この男が営業成績ナンバーワンだなんて、しょうもない会社と思うかもしれないが、この男の勤める会社は日本でも有数の文房具メーカーで、男の勤務する支店は全国でも一、二を争う販売成績の優良支店なのだ。つまり男は日本中の文房具メーカーの中でも大変優秀な営業マンと言えそうだ。営業マンとは一体何なのだろうと若干気にかかる。この男が営業マンの見本であるとするのなら、他の人間にはとても営業マンなんて仕事は勤まらないだろう。それは彼の上司にも後輩達にも同じことが言える。彼らはこの男ほど営業マンを徹底して演じてきれていないのだから。
休みの日にも男の営業は休まることはない。今日は支店のゴルフコンペとやらがあるそうで、休日にもかかわらず朝も早くに男は出掛けた。そもそもゴルフというものは何が面白いのだか皆目見当もつかない。町中にある僅かな自然を破壊して、さらにその地に芝生を張って人工池を造ってバンカーという名の砂場を造ってゴルフ場は建設される。阿呆な人間はそんな場所でゴルフをして
「大自然はいいね」
などと勘違いも甚だしい会話をする。カップにボールを入れるのが目的のスポーツなのに何故、池や砂場が必要なのか。ゴルフをやっているやつらにもおかしな奴が多い。この男ももれなくその一人だ。同じグループの誰かがショットをすれば取り敢えず「ナイスショット!」
ボールの行き先も分からないのに何を馬鹿なことを言っているのか。プレーしているやつらはやつらでニコニコしながらラウンドしていやがる。スコアを競うスポーツならもっとお互いを意識してすればいいものの、やつらは我らのグループが一番楽しくラウンドしていることを誇るかのように笑顔を振りまいている。
その中でも一番張り切っているのがあの男だ。ラウンド中に酒を飲み、一緒のグループのメンバーを盛り上げさせる。相手が年上だろうが年下だろうがお構いなしに。これがこの男の本性なのか仕事柄なのか全くもって理解ができない。