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第二十九話 捜索 

 支店長の奥さんは寝室にこもってしまった。我々の前にいるのが辛いのだろう。


「そういえば心音ちゃんの行動範囲ってどれくらいなんですか?」


藤井がふと支店長に問い掛けた。


「うん。家を中心に半径一キロメートルくらいだと思うんだよ。俺はてっきりあの家の前の公園にでもいると思ったんだけどな」


「もう一回公園探してみませんか。それでも見つからなければ僕が運転しますのでちょっと離れた所も探してみましょうよ」


藤井にしては中々気の効いた進言であった。ちょっと前までのこいつは自分の意見が否定されることに怯えて何も喋れないようなヤツだったのに。オレといることで少しは成長した、自分に自信が持てるようになったのかな。


「そうだな。藤井有難う。お前ちゃんと成長しているじゃないか」


支店長はまた笑顔を見せて立ち上がったが、真に笑っていないことは誰の目にも明らかだった。


さして広くもない公園を三人で必死に捜索した。正確には必死なのはふたりだが。オレは可能な限り必死を装うだけ。


「心音ちゃん。どこにいるの。みんな心配しているよ。早く一緒に帰ろうよ」


支店長がそっと藤井には気が付かないようにオレに話しかけてきた。


「本当に藤井のやつ頼りになる人間になったなあ。今は一緒にいてとても頼もしいよ。きっと仕事もできるようになっただろう。相手の気持ちを考えてやることができるようになるのが営業としての第一歩だからな。生馬、ありがとうな」


「オレは何もしていませんよ。あいつなりにお客さんとの接し方とか、人を思いやるってことがどういうことなのか理解してきただけでしょう」


「それでもお前のお蔭だよ」


オレはこの人は本当に部下を大事にする心の優しい男なのだと改めて認識させられた。いつもはひとりパソコンに向かって仕事をしていて、誰が何処に行こうがお構いなしって感じだったが、それは真に愛のある放任主義なのだろう。その代わり夜になったら皆と会話がしたくてやたらと飲み会に誘うのだ。一度この人と一緒に飲みに行くのも悪くないと思った。


正直、この時オレは心音を殺してしまったのはオレ自身だとことが半分頭から抜け落ちていた。支店長には申し訳ないことをした。だが、ああするしか仕方がなかったのだ。


オレ自身が自分は悪魔であると公言したとしても誰も信じないだろう。しかし、人間とは不思議なもので子供の言うことなら信じてしまう傾向にある。いくらなんでもオレが猫を喰っていたと言ってもそれを鵜呑みにする大人はいないだろう。しかし、猫を殺したことくらいは信じてしまいそうな気がする。オレのことを本物の悪魔とまでは言わないだろうが、「悪魔のような男」として扱うようになるだろう。そうなると、毬や綾、そして美佐子が迷惑を受けることになる。それを避ける為にはオレは普通の「いい人間」として扱われていなければならない。その為には心音を喰ってしまったことは仕方のないことだったのだ。随分自分勝手な言い訳に聞こえるかもしれないが、悪魔とはそういうものなのだと理解して欲しい。

 

公園での捜索は諦めて三人で藤井の運転する車に乗って住宅街を1周する。子供の隠れそうなところがあれば、一度停車をして歩いて探す。こんなことを一時間半くらい繰り返したが、本人はもちろん手がかりになりそうなものも出てこなかった。時間はもう夜二十時をとうに過ぎていた。


「ふたりとも有難う。後は警察に任せよう。もしかしたら今頃家に帰っているかもしれない。もしかしたら警察からなんかしらの連絡が入っているかもしれない。だから、ふたりはもうここでいいよ。藤井、生馬を家まで送ってやってくれ」


支店長はとても疲れ切った顔でそう言った。オレ達がこれ以上いると逆に迷惑になるかもしれない。だからお言葉に甘えてこれで帰らせて頂くことにした。


藤井の車で家に送ってもらう道中オレは言った。


「藤井。少しだけ飲んで行くぞ」


「ええ?今日はもうこんな時間だし、あんなことがあったばかりなんだから帰りましょうよ」


「あんなことがあったからまっすぐ家に帰るのが嫌なんじゃないか。それに2時間だけ飲んだら最後のパトロールだ。このままじゃ家に帰っても眠れやしない」


「確かに…。それもそうですね」


ふたりでチェーン店の大きな駐車場付きの居酒屋に入った。


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