第二十八話 警察
最初は支店長もちょっと近くで遊んでいるのだろうくらいに思っていたのだろう。特に一生懸命になって探しているという様子ではなかった。しかし、捜索も十五分程度過ぎてくると、どこに探しに行ったらいいのか分からないといった様子で一旦立ち尽くした。その頃になると家の中にはもう誰も残っておらず、全員で四方八方に分かれて心音を探し始めた。
近場の公園を探す者、十五分程度歩いた場所で大きな声で「心音ちゃん!」と叫ぶ者と様々だった。しかし、彼女が見つかる筈も無く全員で探し始めてから一時間程したところで誰が言い出したか分からぬが、警察に届け出ようということになった。支店長が電話で警察に通報し、それから約十分程で警察が到着した。支店長をはじめとしてそこにいた全員が警官の質問に答えさせられた。最後に姿を見たのは何時何分くらいか、どこかへ行くとは言っていなかったかなど。
志茂田が聴取を受けた後、
「支店長、申し訳ありませんが私はこれで失礼します」
と言って駅に向かって帰ってしまった。それにならうかのように警官の聴取を終えた者から順番に家路に向かって行った。時計をみればもう夕方六時は過ぎている。オレは聴取を受けてからもその場に残った。最後に聴取を終えた藤井もすぐに家に帰ろうとしなかった。オレはこのまま帰る気にはならなかった。黙って支店長の家にまた上がり込んだ。支店長にとっては迷惑だったのかもしれないがオレ体達はそうすることが当たり前のようにため息をつきながらソファに座りこんだ。支店長と奥さんもソファに腰掛けていた。オレは冷蔵庫を勝手に開けてまたまたビールを二本取り出した。一本は当然オレ用。一本は支店長に差し出した。
「気持ちが落ち着きますよ。」
そう言って手渡したビールの蓋を支店長は作り笑顔で開けてくれた。藤井が冷蔵庫に近づこうとしたので、
「藤井。なんか連絡があったら誰が運転するんだ?」
オレがそう制したので藤井はすごすごとソファまで戻ってきた。支店長は深いため息をつき、笑顔のままオレに話しかけてきた。
「何だか最近生馬の調子おかしいって聞いてな。気になっていたんだよ。確かにここのところ営業での活躍はすさまじいが、飲みに行ったりしてないじゃないか。何か事情があるのかと思って今日の会を開いたんだが、楽しんでくれたか?」
「吉本さん。オレはいつだって変わりませんよ。ちょっと今は仕事が忙しくて中々遊びに行けないですけど。今日誘って頂いた趣旨を伺って改めて感謝致しました。有難うございます」
「藤井。お前生馬に同行して何か勉強できたのか。ちょっとはマシになったのか」
「はい。生馬さんからは営業について色々勉強させて貰っています」
「何が勉強になっているんだ。言ってみろ」
オロオロする藤井を見て、オレは藤井をフォローしてやった。
「まだ何を得たのかは口では説明できないよな」
「はい。すいません」
支店長はそのやり取りを笑いながら見ていた。今度の笑顔は作り笑顔ではなさそうだった。
「お前らは本当にいいコンビになったなあ」
その言葉に嫌みなところはなく、心からそう思っているのであろうことが伝わってきた。




