第二十五話 白い小さな仔猫
「おい、狩野」
調子に乗って喋っていると志茂田部長から声を掛けられた。
「今日は、支店長がわざわざお前の最近の功積を労う為に用意したくださった席だ。下らない話なんかしてないで、支店長にお礼の挨拶でもして来い」
どうにもオレはこの男が好かなかった。いつでも誰にでも威張り通し、そのくせ支店長にだけはペコペコと頭を下げる。色んなサラリーマンを見てきたがこんなにいけ好かない男も珍しかった。オレはあまりに頭にきたので例の力を使って志茂田に頭を下げさせようかとも思った。しかし、こんな男は相手にするだけ馬鹿馬鹿しい。
「いったい何を見ている。そんなに俺の言うことが気に入らないのか」
と恫喝してきた。オレは驚きを通り過ぎ呆れてしまった。これまでは少しはいい気分で飲んでいたものの、この志茂田の態度に大分気分を害されてしまった。オレは吉本支店長に
「すいません。少し風邪に当たってきます」
とだけ言い伝え、支店長宅を出た。
気分を落ち着かせるために外に出たはずだったのだが、ひとりになると余計に志茂田に対する怒りが湧き上がってきた。生馬に憑依してからこんなに気分の悪いことは初めてだった。
大体、オレが生馬を観察しているときからあの志茂田という男は要注意人物だと思っていた。何が得意なわけでもないのにやたらと威張りちらす。自分に誇れるところが無いものだから相手の揚げ足をとってネチネチと文句をいう最低の上司だ。オレは少し酒でも飲んで気分を変えて支店長宅に帰ろうとした。コンビニだか八百屋だか分からないような店でビールの五百ミリリットル缶を買って、その店の店外にある灰皿の前で煙草を吸い始めた。一本目のビールと一本目の煙草が吸い終わるのが同じ程度の時間だった。オレは店に戻ってもう二本ビールを買い一本を飲みながら一本はポケットにいれておいた。今のオレは最低このくらいは飲まないと気持ちが落ち着かない。そう思って煙草の煙を吸い込みながら酒を煽っていた。ふと後ろの路地裏に目をやった。特に理由があったわけでもない。ここの店の勝手口の横においてあるポリバケツの上に白毛の猫が座っていた。何となくオレは白猫に近づいた。猫は退屈そうにオレの目の前であくびをした。そのときふと衝動的に思ったのだ。
「喰ってやろうか?」
最初はそう思っただけで別に喰うつもりも無かった。しかし白猫の頭を撫でていたとき、あの腹立たしい志茂田の顔が急に頭の中に現れた。その時オレは衝動的に白猫の頭を片手で掴み、筋力をほぼ最大限まで強化してその小さな頭を前後に振った。たったそれだけ、それだけのことで白猫は首の骨を折って死んでいた。オレは反射的に白猫を地面に投げつけていた。この猫はオレが殺したんだ。たいした理由も無く。オレは猫を抱いてそらに祈った。これはオレが殺してしまった死ぬ理由の無かった猫だ。そらよ、叶うならば、この生き物が望む来世の体にしてやって欲しい。そう、心の中で呟いた。




