第二十三話 shopping
オレはその日自宅に帰ってから例のホームパーティーの話を美佐子にした。美佐子は
「気を使って大変ね」
と言ってくれた。やはり彼女には何を話しても楽になる。
「そこでちょっと相談なんだが」
オレは美佐子に申し訳なさそうに話をした。
「支店長の自宅にお呼ばれするのはいいのだが、それに相応しい服が無い。何か適当な洋服を買いたいのだが」
「あなたいつも会社の行事に出るときはTシャツにチノパンじゃない。ちょっとはおしゃれをしてみたくなったのかしら」
美佐子は少し意地悪そうに言った。そうか、人間生馬はTシャツにチノパンだったのか。実はそれさえ分かれば新しい服なんてどうでも良かった。
「いいわ。あなたがおしゃれに目覚めると毬も綾も喜ぶだろうし、第一わたしもあなたがどんな服を選ぶのかとても気になるし。お金は出してあげるから好きなお洋服を買っていらっしゃい」
「おいおい。一緒には来てくれないのかい?」
「あたし自身も楽しみにしているの。だから今回はお供は無しよ。頑張って素敵な服を選んで来てね」
これはこれで面倒な事になった。普通だったら何か適当な、それこそTシャツにチノパンでも買ってくればいいのだろうけど、今回は美佐子の期待背負ってしまっている。彼女を期待させてしまったからには、それ相応の服を選んで彼女を喜ばせなければいけないような気がした。オレは明日の仕事帰りにでも街へ出て洋服を買いにいくことにした。
「いらっしゃいませ」
二十歳くらいの若い女性店員が近づいてくる。オレはあるデパートの中の紳士服売り場に着ていた。オレが好むような洋服を置いてある店はこの店くらいしかなかったが、店員が良くない。あれやこれや喋りまくるに決まっている。近づいてくる店員の脳に向かって「黙っていろ。」と念を送る。すると脳はYESと判断し、女性店員は遠くからオレを見ているだけとなった。
色々な服がある中でオレは黒色の服を中心に選び始めた。それにインナーは白と決めていた。白と黒の2色でコーディネートするつもりだった。これはその場で適当に思いついたことではなく、事前からそうしようと決めていたことであった。オレには原色の黄色や青は似合わないと思っていたのだ。せめて似合うとすれば赤くらいだろうか。悪魔のオレにはその色くらいしか似合わない気が何故かしていたのだった。
選んだのは裾の大きく広がったポケットのたくさんついている黒のズボンとこちらはいたって普通の黒のジャケット、あとは白地にあまり柄のはいっていないTシャツを二枚だった。それとサングラスというものをひとつ選んだ。目の部分が少し大きい奴で顔を隠そうとするならちょうどいい大きさのものだった。選んだ品々は決して安くはなかったが美佐子からそれなりの金額を預っていたので、無事購入できた。
美佐子を驚かす意味で、買った服をそのまま着て帰った。もちろんサングラスもかけて。
家に帰って最初に聞いたのは「ギャー」と言う叫び声だった。声の主は毬であった。
「どこかの芸能人がうちに迷い込んだかと思ったよ」
毬はサングラスを指差しそう言った。
しかし、トータル的にはオレの選んだコーディネートは好評だった。
「歳よりずっと若く見える」
というのが娘たちの意見だった。美佐子にも、
「とっても素敵よ。あなたがそんなおしゃれをするところなんて、今まで見たことも無いわ」
と中々の好評だった。
家ではそれなりの評価を得たが、会社連中の目にはどう映るかなと若干気にしながらその日は床に着いた。




