第二十二話 ホームパーティー
翌日、オレは名古屋みやげのういろうを持って会社へ向かった。社員達の受けはなかなか良かった。人間と言うものは面倒くさい風習を持っているものだと感じた。同僚達がういろうを食っている中、藤井がオレのもとへ近づいてきた。
「生馬さん。聞きました?今度の日曜日吉本支店長の家でホームパーティーやるらしんですよ。生馬さん行きますよね」
「行くわけないだろ、馬鹿」
「それが支店長、生馬さんは絶対に呼べって言っているらしいんですよ。最近、生馬さん飲み会とか来ないじゃないですか。支店長、生馬さんが何か悩みでもあるんじゃないかって心配しているらしいんですよ」
「飲み会をどうやって断るか毎日悩んでいるよ」
オレは藤井にそうこぼした。それにしてもオレも悩んだ。確かにオレはここ半月程会社の飲み会にもゴルフにも行っていない。ここらで少し会社の同僚が催す会にでも出席しなければ、いよいよオレの正体がばれないとも限らない。ホームパーティーならば女性もいるだろうし退屈しないですむかもしれない。ここは出席しておくのが無難かもしれない。
「藤井。オレも出席にしておいてくれ」
「はい。分かりました。僕も生馬さんがいる方が楽しいです」
ああ。また土産物でも買わないといけないなあ。そんなことを考えた。よし、気分を切り替えて今日も営業活動頑張るか。オレは藤井を営業車の横に乗せて営業に出掛けた。
最近の営業は楽だった。例の蛍光ペンが飛ぶように売れているのだ。何もそれはオレが例の力を使っている訳でもない。この業界も不思議なもので最初の新製品を売り上げることは難しいが、その新商品がエンドユーザーにうけて小売店からバンバン売れる様になるとメ―カーへの注文が小売店からたくさん入ってくる仕組みなのだ。蛍光ペンは世の中の女子中高生からの支持を得たようで我も我もと買って行くようになった。こうなればメーカーの営業担当者の仕事なんて楽になってしまうのだ。だからオレの感心事は肝心の仕事ではなく、社内同士の人間関係が主になっているのだ。
「藤井。なんだって支店長は急にホームパーティーなんてやるって言いだしたんだ?」
「表向きは日頃の慰労会ってことになっているらしいですけど、本当のところは生馬さんが最近仕事しかしてないみたいだからパーッと酒でも飲んで馬鹿騒ぎしようってことらしいですよ」
本人が望んでも無いのに酒でも飲まそうとは、なんと考え方が自己中心的であろう。こっちは少なくともお前達とは飲みたくなくて早く帰っているのに、そんなオレに対して酒でも飲ませてやろうなどとはいい迷惑を通り越して滑稽でもあった。
「おい。パーティーの当日はなるべくオレから離れるなよ」
「えっ?どうしてですか?」
「お前は本当に馬鹿だな。オレの周りに誰かがいればオレが楽しんでいるように見えるだろう。お前が側にいてオレを楽しませてくれるのがお前の役割だ」
「そういうことですか。僕も喜んでその役を引き受けます。みんな酒が入るとどうしても仕事の話になるでしょう。あれが物凄く嫌なんですよ。生馬さんだけはそんなことないし、僕も生馬さんといる方が楽しくていいです」
オレは藤井の話がおかしくて思わず吹き出してしまった。
「そうか。お前もうちの会社の飲み会嫌いか。どうなんだろな。実は一人も好きな奴なんていないのかも知れないな」
「いや、支店長は大好きでしょう。誰に気を使うわけでもなく皆支店長の話には、ハイハイと首を縦にしかふらないんだから」
「間違いないな」
「それに町田、青山の女性陣も楽しめるんじゃないですか。基本チヤホヤされるだけなんですから」
「それも間違いない」
「そういえば生馬さんはお子さん連れて行くんですか?子供も楽しいから連れてこいって支店長はおっしゃっていましたけど」
「うちの子らは多分遠慮するだろう。というか行きたいとは思わないさ。大人の勝手な自己満足だってことくらい分かる歳だからな」
「長谷川さんに根本さんは連れて行くらしいですよ。まあ、お二人のところはまだお子さんが幼稚園生ですからね」
「それにあれじゃないですか。支店長のところの娘さん。心音ちゃんでしたっけ。彼女の遊び相手も欲しいんでしょう。自分で面倒を見ているのも面倒くさいから」
この日は一日かけて四件の顧客に訪問し、そのうち三件で蛍光ペンの注文を受けた。うちオレの特別な力を使ったのは一件だけ。営業と言うものはツボにはまれば楽なものだ。ああ、憂鬱なのは土曜日だ。一体誰が得をするのか分からないホームパーティーなんか何故行う必要があるのか。頭の中はそのことで一杯だった。




