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第二十一話 夫婦旅

 夕方十八時半頃、晩飯が部屋に運ばれてきた。オレは必要以上にはしゃいでいた。まるで子供のように。この旅行を楽しんでいる姿を美佐子に見せたかったのだ。キミと一緒ならどんなことでも楽しいよと。


しかし、実際に運ばれて来た料理は実に美味そうだった。山の幸がふんだんに盛られた料理はまさにオレ好みといった感じであった。中には飛騨牛という牛肉があり、最初はあまり気が進まなかったが食してみるとこれはかなりの美味であった。肉が美味いと感じたのはこれが最初だったような気がする。食事中のふたりの会話はふたりの出逢った頃の話とか結婚する前の話になった。これが非常にオレには都合が悪かった。まさかこんな話になるとは思っていなかったし、人間生馬にこんなことを聞いておくわけにもいかなかった。ただただオレは美佐子の話に相槌をうったり、時には思い出したように笑ったりして見せた。オレが焦っているのを美佐子には知られたくなかったのだ。彼女をがっかりさせてしまいそうで。話を彼女に合わせながらオレは人間生馬が羨ましくなった。彼女の若い頃からお互いを知り合い、幸せを分け合い、苦しいことさえ共有できたことは何と素晴らしいことだろうと。


食事のあとはふたりで貸し切りの露天風呂に入った。夏の草花に囲まれたこの大自然はちょっとだけ青臭いと感じた。本当に人間というものは中々おつな趣味をもっている。オレは雄大な楠が緑色の小さな芽を出しているのを見てつくづくそう思った。それなのに人間生馬は仕事と酒とゴルフとパチンコというせこいギャンブルだけに嵌っていたことを哀れに感じた。同時に何故そんな哀れな男に美佐子が惚れていたのか全くの謎だった。オレは完全に人間生馬に嫉妬をしていると自覚した。


 帰りの新幹線が発車するまであと四十分近くある。オレと美佐子はそれぞれ別れて土産物を買いに出かけた。オレは特に土産物を買う相手もいないと言ったところ、きちんと会社の同僚、上司には買って行きなさいと咎められた。オレは店員に勧められるままういろうを人数分よりちょっと多めに買った。美佐子の土産の数は凄かった。冷凍のうなぎにきしめんの乾麺、名古屋の味噌に手羽先。誰にそんなに送るのか聞いてみたところ、殆どが毬と綾の分だという。美佐子は本当に娘ふたりを愛してやまないいい母親だった。ふたりで手分けして土産物を運び、新幹線に乗った。新幹線の中は割と空いていた。



「少し疲れたわね」


と彼女は言い、お茶を一口飲んで目を伏せてしまった。東京に到着するまでの二時間、彼女と会話をすることもできない。東京について山手線と地下鉄を乗り継いで我が家に帰って来た。ホッとする気持ちもあるが、美佐子とふたりきりでいられる貴重な時間が終わってしまった寂しさがオレを支配していた。子供達は次から次へと出てくる土産物に一喜一憂していた。


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