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第十五話 受注Rush

「昨日はご馳走様でした。すみません。途中で寝てしまって」


営業車の中でふたりきりになってから藤井は切り出してきた。当然だが他の奴らといるときに昨日ふたりで飲みに行ったとは言えないからだろう。オレもその方が有難かった。


「いいよ、別に気にするな。それにしても大分愉快な酒だったな」


「僕は生馬さんの意外な一面を見たって感じでとても楽しかったです。仕事人間だとずっと思っていましたけど、あんなに熱く語れるものがあるなんて凄いなって。しかも内容が悪魔や神様のことですからね。驚きましたよ」


「なあ藤井。昨日しゃべったことは他の連中には内緒な」


「分かりました」


オレは煙草をくわえて火をつけた。この煙草というものも結構気に入った。気に入ったといえば昨日飲み屋でくった料理の数々も気に入った。特にオレは野菜というものが好きなようだ。肉も魚も悪くはなかったが、断トツで野菜が美味い。何か人間生馬が毎日のように飲みに行く気持ちが分かったような気がした。今日はアポイントが三件入っている。もちろん人間生馬がとったアポイントだが。こいつの手帳には一カ月先の予定まで入っているので息苦しくなる。

 

オレ達は最初のアポイント先である長瀬文具に向かった。藤井がこう問うてきた。


「生馬さん。商品を進めて相手に買って下さいって念じるんですよね。そしたら七秒後には買いますって答えが帰ってくるんですよね」


心の中でオレはしまったと思った。昨日はいい気分だったのでそんなことまで話してしまったのだった。あまり注文をとり過ぎないようにと思っていたのだが、今日もひとつは受注しないと恰好がつかなくなってしまった。

 

長瀬文具について担当者と軽く挨拶をして早速新商品の蛍光ペンのカタログを出す。頭の中で「買え」と念じながらおひとついかがでしょうかと問う。当然答えはYESである。

全色一ダースのお買い上げとなった。


 帰りの車中での藤井の興奮の仕方といったら子供のようにはしゃぎまくっていた。自分も試してみたいと随分テンションが高かった。この調子だとあと二件あるアポイントの中でもう一件は受注しないといけないような気持ちになる。訪問二件目の文房具屋でも同じ手口で蛍光ペン全色一ダースの受注をした。そして、3件目の訪問先では想いがけない展開がオレ達を待ち受けていた。この店ではオレは念力を使うことはしないと決めていたのだが、カタログを渡すと相手の担当者が


「ちょうどいいですね。ちょっと蛍光ペンの種類を増やしたいと思っていたんですよ」


なんと三件目はオレの力でもなんでもなく注文が転がり込んできたのだ。これで今日は三件回って三件とも受注すると言うとんでもない結果になってしまったのだ。オレはともかくとして藤井のはしゃぎようは尋常では無い。


「生馬さん凄いです。生馬さんがいつも売上トップなのは会議で知っていましたけど、実際に営業活動を見させて頂いて本当に驚きました。何が凄いってまずは人間関係が完璧に構築されていますよね。そのうえで、あの魔法の呪文。人間工学まで営業にとりいれている人なんて初めてみましたよ」


オレが取り入れているのは人間工学なんかではなく悪魔の力なんだけどな。とにかく昨日は調子に乗って余計なことをしゃべりすぎたようだ。酔った勢いだから仕方がないか。

 

事務所に戻って支店長に今日の営業活動の報告をする。オレはこの瞬間がとても気が重いものだった。オレの報告を聞いて支店長は立ち上がり、素晴らしい実績だ、営業の鑑だなどと褒め散らかす。同僚達はただただ驚くばかりで褒めるどころか嫉妬のような目つきで見てくる者もいた。これが嫌だったのだ。人間に憑依したらなるべく目立たないようにしたかったのだが、今回は本当に大失敗である。


報告が終わるとオレはなるべく早く退社した。今日は何だか疲れてしまった。悪魔が人間程度に憑依すると毎日楽で仕方がないと思っていたのだが、これはこれで気疲れすることも多いようだ。


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