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第十四話 神様とそら

 正直ちょっとしゃべり過ぎたかと思ったが、飲んでいる最中の話しだ。まさか藤井もこのオレが悪魔そのものだとは気が付くまい。


「悪魔って人間を喰ったりするんですか?」


至って真面目な顔で藤井は問うてきた。


「喰うよ。というより喰えるよっていった方が正しいかな。別に定期的に人間を喰う訳じゃない。一日三食なんてとんでもない。滅多なことでは喰わないんだ。でも、人間の味は嫌いではないからな。どうしても喰いたくなったときは食う。食欲を満たす為というよりは、気に入らない人間がいて、そいつに我慢が出来なくなったらそいつを喰うというパターンが一番多いな」


「へえ。気に入らないやつを喰っちゃうんだ」


藤井は鶏のから揚げをむちゃむちゃと食いながら感心している。


「なんか生馬さんのいう悪魔って僕の持つ悪魔のイメージと違いますね。多分一般的に悪魔のイメージってもっと恐ろしいものだと思うけどな」


「おいおい。十分怖いだろ。悪魔に目を付けられたら五感だって潰されちゃうんだぞ」


「そこですよ。悪戯には他人を傷つけたりしないんでしょ。目を付けられたりしなければいいんでしょ。悪魔ってどんなやつに目を付けるんですかね」


この問いには正直オレも言葉に詰まってしまった。オレは今すぐ傷つけたいやつなど存在しない。今のところはだが。オレはこの先どんな奴がいたらそいつを傷つけたくなるのだろう。果たして人間ごときにオレが腹をたてることなどあるのだろうか。藤井には正直に、


「どんなやつだろうな」


とだけ答えた。


さっきから藤井が美味そうに食っている鶏のから揚げというものが気になった。鶏の肉とは一体どんな味がするのだろう。藤井に断りもせずに皿の上からひとつ摘みあげ、口の中に放り込んだ。藤井があまりに美味そうに食べているので、どんな味かと気になったがあまり大した味ではない。なんだかパサパサしているし、歯ごたえも大してなく噛みしめたときの旨みも全く予想を下回るものだった。人間というのは本当に分からない。こんな肉ならオレのオーダーした野菜中心のつまみの方が断然美味いに違いない。


藤井は今度は焼酎という酒を飲むらしい。ものは試しでオレもひとつ頂くことにした。


「生馬さん本当に大丈夫ですか。いくらなんでも飲み過ぎじゃないですか」


藤井の忠告はあえて聞こえないふりをした。


「生馬さん。じゃあ、神様っていると思います?」


藤井は目を輝かせて尋ねてきた。本当にこういう話しが嫌いではないのだろう。


「神様はな。いないよ」


オレは取り敢えず事実だけを答えた。そう、この世に神などいないのである。


「ええ。いないんですか。それも悪魔について書いてある本にいないって書いてあったんですか」


「まあ、それもそうだが。神がいないというのはオレの持論だ。逆に藤井は神がいると思っているのか?」


「思っていますよ」


「どうして?」


「だってキリスト教、仏教、イスラム教なんかでも教えは違えどみんな神様って信じているじゃないですか。日本だって神社が神様を奉っていますよ。世界中の人が信じているのだからやっぱりいると思いますけど」


「皆が信じれば神様は存在するのかい?」


「そういうわけじゃないですけど、聖書とかコーランにも神様のことが書いてあるんじゃないですか」


聖書やコーランと言ったものは知らないが、オレはひるまなかった。


「じゃあ、神様ってのはいったいオレ達に何をしてくれるんだい。存在するのなら何か活動をしているんじゃないか?」


「多分ですけど、人間界を見て人間の功罪なんかを見極めているんじゃないですか?いいことをした人は天国に行けるように。悪い人間には地獄に落とすように見張っているんじゃないかなあ」


あまりに滑稽な答えにオレは思わず声に出して笑ってしまった。


「待て待て。それじゃあお前は天国と地獄も信じているのか?言っておくけどそんなものも無いぞ。生き物は死んだらどうなるか知っているか?」


「ええ?天国も地獄もないんですか?じゃあ死んだら人間はどうなるんです?」


「人間に限らず生き物は死んだら全てそらに会いに行かなければならないんだ。そこでどんな生前を送って来たか報告しなければならない。とはいってもそらはその生き物がどんな暮らしをしてきたかなんて一目で見抜いてしまうけどな。だから、生き物は生きていて楽しかったこと、辛かったことときの感想を報告するんだ。そらにそれを報告したら、全ての魂は釜茹でにされる」


「ええ。それって地獄じゃないですか」


藤井がオレの話を遮った。オレは構わず話を続けた。


「業火で煮立った釜にたくさんの魂が入れられる。やがて魂は形が溶けてなくなり、色んな魂同士が混ざり合っていくんだ。そして、釜から引き揚げられた時には新しい魂の形を造るんだ。そしてそれをそらが、この魂は人間、これは鶏、これは猪って感じで割り振るんだ。それも適当に割り振るのではなくて何か意図があるらしいけど、それ以上のことはオレにも分からない」


「その話が本当なら皆が神様って呼んでるものはそのそらってやつかも知れませんね。」


「そらはそらだぜ。神様とは違うな。オレ達の頭の上にあるあの雲が浮かんでいるやつ。あれがそらだからな」


藤井は焼酎を煽りながら話を聞いていた。少し酔っぱらっているのかもしれない。

「そらって新しい命を生み出しているんですよね。それって神様の仕事と同じじゃないですかね」


「命を生み出しているのは一部例外を除いてみんな両親の性行為によるものさ。そらはそこにポンと種を植え付けてやるだけのことさ。新しい命を生み出すなんて大げさなものではないさ」


「一部を除いてって例えばなんですか?」


「例えば悪魔さ。悪魔は自己繁殖能力が無いからな。数が少なくなったらそらが無から悪魔を作り出して世に出すのさ」


「へえ。他には?」


「デモンにサタンそして天の使いなどがそうだな」


藤井は返事もせずに食卓の上に突っ伏していた。完全に酔っているようだ。そろそろ家に帰った方がよさそうだ。オレは店員を呼んで料金を支払い領収書を受けとった。こういった飲み代の処理の仕方はよく知っている。


店を出る前にタクシーを一台用意してもらった。そのタクシーに藤井を押し込み行き先を運転手に告げた。


「生馬さん。今日は本当に楽しかったですよ。ありがとうございます」


藤井を乗せたタクシーが見えなくなるまで見送ってオレは駅に向かった。藤井は意外と酒が弱いという印象をオレに植え付けた。時計はすでに二十二時を回っていた。


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