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第十話 同じ言葉

そんなことを考えつつ、適当に池田の話しに相槌をうっていたらオレが蛍光ペンの受注の返事を頂いてから一時間程経とうとしていた。確かこのあとも得意先回りの予定が入っていたはずだ。そこでオレは半ば強引に池田の話を打ち切り、六海道書店を後にすることにした。応接室を出るときにオレは意識的に、


「今日は有難うございました」


と言った。池田も気分が良さそうに、是非また来てくれという。そして玄関を出た後は、


「有難うございました」


は言わずにまっすぐ営業車に乗り込んだ。池田は我々が車を走らせるまで、玄関先で見送りをしていた。


「フーッ」と大きなため息をつきオレはネクタイを緩めた。相変わらずこの窮屈なものが何の役にたっているのか理解ができない。つまらぬゴルフの話しを聞かされている最中はなおさら窮屈だった。


「藤井。お前、ゴルフは好きか?」


「ええ。好きですけど。さっきの池田さん程ではないですが」


「オレは大嫌いだ」


 この日はもう一件得意先を回って会社に戻った。もちろん例の段取りで蛍光ペンの受注はしておいた。やたらこの能力で受注するのは避けた方がいいとは思っていたが、最初のうちに実績の貯金を作っておきたかったのだ。明日からはしばらく、人間生馬と同じように色んな客をまわって地道に営業するつもりだった。


 事務所に戻って吉本支店長に新商品の受注の報告をした。すると支店長は、


「良くやった生馬。さすがは我が部署のエースだな」


と大きな声で大げさに褒めちぎった。周りの連中はそんなに早く新商品が売れるものかと驚いた表情をしてこちらを見ていた。新商品が発売開始直後に受注できたことを本部に報告する為の報告書を作成するように吉本支店長から指示を受けた。デスクに戻りパソコンのスイッチを入れオレは報告書を作ったがものの3分程でA4用紙一枚分の報告書ができ上がった。あまり早くに完成してしまうと人間生馬との能力の差が顕著に現れてしまう為、オレは何もしないまま30分程パソコンをいじっているふりをして時間を潰した。丁度頃合いになったとき、オレは報告書を支店長に提出し、


「今日はこれであがらせて頂きます」


と一礼した。


「ご苦労様。今度近いうちに祝勝会をやろうな」


「有難うございます」


またしても無意識のうちにこの言葉が口からこぼれてしまった。そうしてすぐにオレは事務所を出た。これ以上長い間事務所にいては誰かに飲みに誘われる可能性が高い。そうなる前、他の者どもが忙しそうにしている間に事務所を出たかったのだ。


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