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プロローグ

 少々古びた……、いや、はっきり言ってかなりボロい。


 二階建てがどこか心配になる木造アパート・ハイツ千寿ちず


 そのうちのとある一室――。


 わたしは羞恥心の為、顔を真っ赤にしていた。


 大小様々な本棚に囲まれたかなり雑多な印象の部屋で、千恵ちえちゃんはわたしのノートパソコンを見ている。


「……ふ~ん、お姉さんってこんなの書いてるんだぁ」


 ノートパソコンのモニターには、わたしが書いた稚拙な小説が映し出されていた。


「え、えっと、その…………」


 わたしは口ごもる。


 特にお腹が痛いとかそういう訳ではない。


「もしかして、WEB作家とか?」


 一拍置いて、わたしは小さく頷く。


 まごまごと落ち着かない様子のわたしだったが、そんなことはお構いなしと言わんばかりに千恵ちゃんは目の色を変えた。


「あたし、WEB小説大好きなんだ! ねぇ、ペンネームを教えてよ!」


 わたしは消え入りそうな声で一言つぶやく。


公衆便女こうしゅうべんじょ……」


 名前を言った途端、その場がしんと静まり返った。


 大切な何かを失った。


 そう思ったが、しばらくして、千恵ちゃんは言った。


「……その名前を呼ぶのははばかれるから聞かなかったことにする」

「ありがとう……」

「じゃあ、ペンネームじゃない本当の名前は?」

「……つる

「鶴。あたし、鶴に弟子入りするわ」


 思わず意味が分からないと口に出してしまったが、千恵ちゃんは満面の笑顔で、ショートパンツのポケットに手を突っ込む。そして、ガム食べる? と言ってきた。


「ちょっ、ちょっと……! 弟子入りってどういうこと……!?」


 突然の弟子入り宣言に驚いたわたしは、少し詰め寄り気味に千恵ちゃんの肩を掴む。


 しかし、千恵ちゃんはまるで意に介さず、こう言った。


「もう決めたから」


 一言で言って、サイコパス。純粋な目をしていると思った。


 目の前の少女は多分、先行き悪い意味で大物になる。


「これからよろしくね、鶴」


 これはわたしと彼女のぐだぐだで甘々な日々を綴ったしょうもない記録である。

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