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第8話 出発!

 この世界は大きな大陸で出来ており四つの国がある。


 それは、かつて勇者一行が魔王を討伐した後、彼らがそれぞれの役割に基づいて築いた国々である。

 一番大きな国は、勇者が治める国。勇者の国を中心に、三つの国がそれを取り囲むように存在している。


 戦士、僧侶、魔法士が代々納める三つの国はそれぞれの特性に合わせた統治を行い、独自の文化と伝統を持っている。


「勇者の国は代々続いてないのか?」

「勇者は魔王を倒した時、呪われて不老不死になってしまったそうよ。だから一代でずっと続いているわ」


 ノアディルはその答えに寂しそうな表情をした。


「ずっと歳を取らないなんてすごいね! 羨ましいよ!」

「どうかしらね……」


 リアの無邪気な回答に、ヴィオラは少し考えながら答えていた。


「しかし、小屋にある本には国の情報とかは無かったと思うが、何故知っているんだい?」

「たしかに……不思議よね。多分記憶をなくす前から知っている事なんだと思う。全部の記憶が失われている訳ではないみたいね」


 そんな会話を俺達は食事を終えた休憩時にしていた。


「さて、食休みも出来た。そろそろ行こう!」


 ノアディルはそう言って立ち上がった。


「これが作ったバイクだよ!」

「おお……!」


 リアが作り上げたバイクは、見た目に未来的な美しさが漂っていた。

 滑らかな曲線を描くボディは、金属の冷たさを感じさせないほどに洗練されており、表面はメタリックな輝きを放っていた。

 全体のサイズはコンパクトで、二人乗りのシートはやや狭いものの、それでも十分に快適そうだ。


 バイクは三輪の構造で、前方に設けられた操縦席が特徴的だった。

 そこには一人が座り込み、バイクを自由に操ることができる。

 そして、その後ろに連なるように二人分の座席が並んでいた。

 座席同士は少し密着するほどの距離感で、それがかえって旅の連帯感を強めているようだった。


「これがリアの作ったバイクか……」


 ノアディルは、その美しい仕上がりに思わず息を呑んだ。


「そう! どう、いい感じでしょ?」

「見た目もいいし、コンパクトで扱いやすそうだな」

「操縦席は前にあって、後ろに二人が座れるの。でも、二人席はちょっと狭いから、仲良く座ってね!」


 ヴィオラもバイクに目を向け、その精巧さに驚いている様子だった。


「本当に素晴らしいわね……これが手作りだなんて信じられないわ」

「まあ、機械いじりは得意だからね」


 リアは照れたように鼻をこすりながら言った。


「さぁこれで一気に距離を稼ぐよ!」


 そう言ってリアは操縦席に座った。

 後ろにはノアディルが座り、その隣にヴィオラがぴったりと座った。


 二人は一瞬顔を見合わせ、お互い少し気まずそうな表情をしていた。


「じゃぁ出発!」


 リアはそんな事はお構いなしに、三輪バイクを進め始めた。


・・・


 リアが操縦するバイクは、滑らかに宙を浮いて進んでいた。

 タイヤが地面からわずかに浮き上がり、遠心力によって生まれる反重力の力がその巨大な三輪車を支えている。

 でこぼこ道もスムーズに走り抜ける様子は、まるで風のようだ。

 ナノマシンが散布され、ルートを自動補正しているおかげで、障害物との衝突を防ぎながら進むことができる。

 ノアディルは座席の狭さに少し不満を漏らしつつも、安定感のある走りに感心していた。


「荒れた道なのに、ガタガタ揺れない……すごいわね」

「でしょ? バイクのタイヤは反重力で浮いてるから、階段もなんとかなるよ!」


 数時間後……

 山の麓に到着した一行は、荒れ果てた階段を見上げたが、バイクは難なくそのまま進んでいく。

 多少の段差や障害物も、まるで存在しないかのように軽やかにクリアしていくのを見て、ノアディルはリアの技術に改めて感謝した。


「さすがだな。リア」

「ふふ、そうでしょ?」


 ノアディルが褒めるとリアは笑顔を見せた。

 ヴィオラは特に何も言わず、前方の景色をじっと見つめていた。

 

 バイクで階段を進んでいる途中、突然空気が変わった。

 緊張感が漂い、リアの手が自然とバイクのハンドルに力を込める。

 ノアディルが目を細めて前方を見つめると、道の真ん中に立つ不気味な影が浮かび上がっていた。


「……何だ、あれは?」


 全長3メートルほどのその存在は、まるで瘴気のような白いもやを全身に纏い、人型をしている。

 しかし、通常の人間とは明らかに異質な雰囲気を放っていた。

 白い鎧を全身にまとったような姿だが、その鎧の隙間からは中身が見えない。もやもやとした形のないものが渦巻いており、その実体が曖昧だ。

 さらに、その背中には神聖な天使を思わせる大きな輪が浮かんでいた。

 それは輝きを放つわけでもなく、ただ静かに回転しているだけだが、その姿は異様に目を引いた。


「まだいたとはね……」


 ヴィオラが苦々しそうに呟いた。彼女の目はその存在を冷たく見つめている。


「天使すら狩る者……[エンジェルイーター]……」

「天使……?」


 ノアディルは驚きながらもヴィオラの言葉を聞く。


「魔法が一切効かない。そして一つのルールに従って行動しているの」

「ルール?」

「おそらく……"自分より高所に居る者を全員処刑する"ってルールよ」


 ヴィオラはその言葉を冷静に放ったが、その声にはどこか無力感が滲んでいた。

 ノアディルは再びエンジェルイーターに視線を向けた。

 白い鎧に包まれた異形は動く気配を見せず、ただ静かにそこに佇んでいる。

 だが、ヴィオラの言葉通り、もしこの場所で自分たちがエンジェルイーターの視界よりも高い位置に立った瞬間、それは容赦なく襲いかかってくるのだろう。


 しかし、先へ向かうにはこの階段を上に登らなければいけない。

 前に進む為には絶対に奴より上に行くことになる。


「ヴィオラはなんでルールまで知ってるの?」


 リアはヴィオラに質問した。


「実際に見たからよ。過去に塔を目指した時にね……」


 ヴィオアはそう話始めた。

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