第20話 半年後
半年という歳月が流れ、4人は久しぶりに一堂に会した。
テーブルを囲み、成果の発表を行うために集まっている。
リアが元気よく声を上げた。
「まずはボクから言っていい?」
しかし、ノアディルが手を挙げて制する。
「いや、リアの発表は楽しみだから最後にしよう。な?」
リアは少し不満げに口を尖らせたが、
「しょうがないな! 最後でいいよ!」
と引き下がる。
その様子を見て、ノアディルは心の中で(リアの発表は絶対長くなる。最後が無難だな)と呟いた。
「じゃあ、俺から始めるか」
とノアディルは立ち上がり、深呼吸を一つした。
そして、体を軽く構えると1段階解放を披露する。
全身に淡い青白い光が宿り、静かだが確かな威圧感が漂う。
「ルミナとの修行のおかげで、1段階をずっと維持できるようになった。これからはこの状態を基本にして戦うつもりだ。」
ヴィオラが目を見開いて感嘆の声を漏らした。
「1段階……エンジェルイーターを倒してしまうほどの力に常時なれるのね……! 」
「結局、4段階目にはなれなかったんだ。これから先、なれるのか、それともずっと無理なのか……それは分からない。でも、3段階までを駆使して戦うのが現実的だと思う。」
「1段階であの強さなら、十分すぎる気もするけどね」
ヴィオラは微笑んでいた。
「ルミナも凄く強くなったんだよ!」
そう言うルミナにヴィオラは優しく微笑みかけた。
「次はヴィオラの番だね!」
とリアが促すと、ヴィオラは頷きながら立ち上がった。
「じゃあ、私の成果を見せるわ。」
彼女の瞳には自信が宿り、指先には微かな魔素が集まり始めていた――。
そして、
「私は記憶が戻った時に思い出した古代魔法を習得したわ!」
と自慢げな表情をした瞬間、彼女の背筋に悪寒が走り、表情が一変した。
目を鋭く細め、すぐさま後ろを振り向いた。
「リア、あの姿が見えなくなる魔法をすぐに展開して! 隠れるわ!」
ヴィオラの急迫した声と真剣な表情に、リアは反射的に対応する。
「わ、わかった!
と即座にカモフラージュ機能を起動し、4人を透明な防壁で覆った。
「ヴィオラ、どうしたの……?」
とルミナが不安そうに尋ねるが、ヴィオラは短く「静かにして」と言いながら額の汗を拭う。
リアが「今、音も遮断しているから普通に話しても大丈夫だよ」と安心させるように言うと、
ヴィオラはようやく少し肩の力を抜き、深呼吸をした。
「後方から……邪悪で大きな魔力を感じたわ……!」
ヴィオラの声は震えていた。
「間違いなく段違いにやばい魔物……それも複数体よ」
その言葉に全員の表情が引き締まり、緊張が広がる。そして――
「グルル……」
その姿は一見して人型に近いが、その姿は明らかに異形。
深い緑色のうろこに覆われた体は、光を浴びるたびに虹色の輝きを放つ。
滑らかに光沢を纏うその肌は、硬質な鎧のようでもあり、まるで自然の芸術品のような美しささえ漂わせている。
鋭い黄金の瞳は獲物を見据え、あらゆる動きの先を読むような冷静さを持つ。
頭頂部からは短い二本の角が突き出し、戦士としての威厳を感じさせる。
背中には膜状の巨大な翼が広がり、夜空に浮かぶ星々を思わせる模様が描かれている。
その翼は風を切るたびに微かに光り、見る者に不気味な美しさを印象づける。
「スカイサーペント……!」
ヴィオラは驚きに目を見開きながら呟く。
「勇者冒険記に出てきた魔王の側近……!」
スカイサーペントは鋭い瞳を輝かせながら周囲をキョロキョロと見渡していた。
「何かを探している……?」
ノアディルは眉をひそめる。
その時、2体の後方からさらに異形の魔物が姿を現した。
それは真っ黒な翼を広げ、全身が骨で構成されたスケルトンのような姿をしている。
さらに全身からどす黒い瘴気が立ち込め、見るだけで胸を締め付けるような恐怖を感じさせた。
その魔物は、
「……おかしい。魔力を一切感じない。やはり気のせいだったのカ……?」
首を少し傾け、不満げな様子を見せる。
その隣でスカイサーペントの一体が問う。
「ナイトメアスカル様。そろそろ教えてください。我々が急にここへ来た理由を……」
ナイトメアスカルはゆっくりと答える。
「いや、伝説の大魔導士……そいつの魔力を感知した気がしたのダ……だが……どうやら気のせいだったようダ」
そう言うと、3体の魔物はふわりと空中へと浮かび上がり、そのまま遠くの空へ飛び去った。
「今の……何だったの……?」
リアは息をのんだ。
ノアディルは慎重に周囲を確認しながら、
「あの一番強そうだった骨のやつ……俺も覚えてる。勇者冒険記に出てた……」
とヴィオラを見る。
ヴィオラは深く頷き、
「ナイトメアスカル……魔王と酷似していたわ。似ているだけ……だとは思うけど……」
不安げな表情を浮かべながら、ヴィオラは空をじっと見つめていた。




