話し合い
気まずい。
それはこの、向かい側に座る人物のせいに他ならない。
ざわついた店内と反対に、私達のテーブルだけ沈黙に愛されている。
「お待たせしましたー。アイスコーヒーとフルーツティーフロートになります。ごゆっくりどうぞー」
フルーツティーフロートを自分の方へ引き取ると、向かい側の人物も無言で珈琲にガムシロップとミルクをたっぷり入れる。
それを一気に飲み干した。
カラン
「わ、わるかった!!!!!!」
コップが置かれ氷が揺れると同時に、目の前の人物、
ーーゴールドさんこと、将は大きな声で言った。
「こっ、この間は酔って……。ねこまんまのこと、本気で付き合いたいと思ってたのは本当だけど、あそこまでするつもりはなかったんだ。ほんとわりぃ。いや、わるかった」
デーブルに頭がつきそうなほど、頭を下げる。
周囲の席が静まり返り一瞬注目を集めてしまう。
「ちょ、こ、声抑えてください」
こちらがオロオロしてしまう。
が、なおも頭を下げ続けるゴールドさんにため息をつくと……
「……わかりました。謝罪は、受け入れます。それで……今日みたいなのも本当に困るんです。家まで来られると怖くって」
勝ち気な雰囲気の将は、一瞬怯んだ表情をする。
そんな顔されたって、こっちだって怖かったんだ。言葉を飲まこむように、甘酸っぱいフルーツティーフロートを口に入れる。
「いや、でもこれはねこまんまが悪い。俺は、連絡もしたかったしゲームでも話したかった。でも、拒否されてちゃゲームで探すのも無理あるし、連絡のとりようねーじゃねーか」
まぁ、確かに一理ある。
「私、合コンは、数合わせに呼ばれただけです。それに彼氏もいます。ゲームでも別のギルドで良くしてもらってるから……ゴールドさんにはお世話になったと思ってるけど、もう、お互い関わるのはやめましょ」
檸檬くんがゲーム内で打った設定を借りて……ここは、彼氏がいると言っておこう。
「あぁ……わかったよ。俺、単純だから。ゲームの相方って現実でも交際了承された気になってたんだ。ただ、ナメられちゃいけねぇと思って……。会いに来いとか、色々言っちまった。悪かったよ」
やけに素直な言い草に、違和感を覚えながら。しかしここで掘り返しても良いことはない。
「こっちで友達いないって言ってたけどさ、この前の合コンの男性陣?とかも連携とれてたじゃないんですか?」
「あぁ……同じ会社の奴らなんだけど、いいやつでさ」
「良かったですね、ゴールドさん。今度は、良い人見つけてください」
すっかりアイスの溶けたフロートをストローですすりフルーツを残す。こういうのって食べる? 残すもの?
「じゃあ……もういいかな。もう、家まで来ないでね」
「あぁ……休みの朝から、悪かったな」
席を立とうとして呼び止められる。
「あのさ、これは知っといたほうがいいと思うんだけど……」
「?」
「あのバズった写真あったろ? あういうのってコメント欄も見てる奴意外と多いもんだ。俺ですら簡単に特定できたんだ。本気で気をつけたほうがいい」
有難くも怖い忠告にお礼を言って、ゴールドさんと解散した。
終わった……これでゴールドさんとのいざこざは、本当に終わったのだろう。
◇◇◇
家に帰り荷解きをすると、ノートパソコンを忘れて来たことに気付いた。
檸檬くん、家にいるかなぁ?
◇◇◇
ーーピンポーンーー
程なくしてドアが開く。
「廉ーー? 早かっーー」
中から出てきたのは、首にタオルをかけ濡れた髪にタンクトップ、ショートパンツ姿の知らない女の子で。
「……何方様ですか?」
「えっとーーれ、廉くんの友達で、中に忘れ物しちゃってーー」
上から下までジロジロと見られる。
「すみません、廉留守で、勝手に家入れれないんですよ。連絡取ってまたあとで来てもらえます?」
パタリと閉じたドアの前でしばらく呆然とした後、いや、これじゃゴールドさんと変わらない不審者だと気付き歩き出す。
あれーー?
檸檬くんって彼女いないってーー
しかしどう見てもあれは、シャワーの後だった。
時刻はお昼前。
こんな短時間でーー。しかし自分だって檸檬くんの家から帰ってゴールドさんと会ってきた。
あ、妹さんとか!
しかしお世話になっていた間、一度も会わなかった。
そもそも、ここはマンションなのに檸檬くんのご両親はーー?
あれーー。
私、檸檬くんのこと何も知らないーー
今更ながら、そんな事実に気付いた。




