合コンで その2
翠ちゃんに話さなかった事が、裏目に出た。
ニコニコしているのに、笑顔が怖い。言葉の圧が、強い。
「合コンなんか来てさぁーー。彼氏いるとか、あれ嘘なんだろ? アパートのあれ、弟とか?」
ちょっとくらい付き合えよ、と引きずるように歩かれる。アルコールの入った身体は思ったより力が出ない。
「なんっなの? 話しならここですればいいで、しょっ」
何とか、人目のある往来で手を振り払うと、将は舌打ちをする。
「俺と付き合おーよ。いーじゃん、元の出会いがゲームだってさ。前は仲良くチャットしてたじゃん。気が合うだろ? 俺ら」
確かに、ゲーム内でペアを組んでいた頃は日常の話もしたし、狩り等はしやすかった。でも、《《根本的な価値観が何か違う》》。そもそも、会ったこともなかったゴールドさんを恋愛対象として好きだったことは、一度もない。
「私、ゴールドさんのことはただの元ゲーム仲間としか思ってないし、会ったこともない人に恋したりしないし、ゲーム内のキャラが結婚したからって現実でもーーなんてならないから。価値観が、違うんじゃないかな。会社も割れてるんだし、これ以上関わらないで」
あなたの会社を知ってる、これが防波堤になるかわからないけれど、一歩一歩離れながら、強調して声に出す。
「ーーっは。だから会おうって言ったし、自撮り送ったし送れっつったじゃん。それを拒否っといてさぁーー」
目が座ってる。自撮りだって頼んでもいないのに勝手に送ってきて、勝手に送れと言ってきて、一体何を言っているのか。
「ゴールドさん、飲み過ぎだよ。酔ってるでしょ? あとで困るよ?」
「ーーっだよ。ーー弄びやがって。ーーっちは本気だったんだぞっ」
「きゃっ」
突如声を荒げ、強く腕を掴まれる。
怖いーー!
誰かーーーー!
そう思った時頭に浮かんだのはーー
「っは、ちょっ、何してるんですかっ」
檸檬くんだ。
汗をかいた檸檬くんが、ゴールドさんの腕をつかみあげた。
「いっーーーーてぇ」
「! れーー廉くん!」
「はっ、はぁ、桜、間に合ってよかった」
走って来たのか、汗で張り付いた前髪をかきあげるとゴールドさんをきつく睨む。
「桜に、手出さないでください」
その様に気圧されるようにゴールドさんは一歩後ろへ下がると、見てみぬふりをしていた夜の街中周囲の人たちも、いつの間にかこちらを見てざわざわしていた。
「ちっ」
ゴールド……将は、舌打ちをすると踵を返して走り去って行った。
「はぁーーーーーーっ」
檸檬くんは大きく息を吐くと両膝に手をつき項垂れる。
「れもーー廉くん? 大丈夫?」
「それはこっちの台詞! 桜こそ、大丈夫か!?」
がしりと両肩を掴むと、まっすぐ視線を合わせてくる彼に、こくりと頷く。
「はぁ。いきなり“合コンにゴールドさんいた。二次会で通り沿いのバー行くことになったから遅くなるね”なんて連絡くれたからーー念の為来てみてよかったーー」
前の飲み屋で二次会が決まったとき、あんまり遅くなると悪いと思って……廉くんにメッセージを送っておいた。
すると廉くんはその顔の近いまま、すんすんと匂いを嗅ぐ。
「しかも桜、酒入ってるでしょーー。帰るよ」
「……うん。」
優しく手を引かれて、廉くんの家に向かい歩く。
繋いだ手の優しさに、さっきまでの怖い手との違いに、涙がこぼれた。
「ーーっ! 桜?」
振り返り気付いた廉くんは立ち止まると、身をかがめて覗き込んでくる。
「大丈夫ーーじゃないよな?」
「んーー。怖かったーー」
俯きそう告げると、一層涙が溢れて、涙を拭った。
人通りのある道、こんなところで、泣いてちゃいけないのに。
「腕、赤くなってる。かなり強く掴まれたんだなーー」
そっと、その痕に触れたあと、廉くんは優しく頭を撫でる。
「歩ける? 背負うのと抱っこ、どっちがいい? 」
「ええっ!? あ、歩けるよ。歩く!」
いきなりの提案に、びっくりして顔をあげると、心配そうに、真面目な顔の彼と目が合う。
冗談で聞いてるのかと思ったーー。
「本気なんだけど」
「お、重いから私! 歩きます! 歩きたい気分! ……手だけ、繋いでてほしい」
それまでのように手をつなぎ、けれど今度は泣かずに、家に入った。
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