偶然
「檸檬くんに会った……」
席に戻ると、翠ちゃんに報告する。
「え、檸檬くんって桜の愛方の? ドコドコ!?」
2列左の後方を、向こうから見えないように指差し小声で話す。
「背高めの栗色の頭の、黒いめがねかけた……」
「あの派手な髪の子と一緒にいる子? 髪型カッコよいね、相方くんの友達」
黒髪にシルバー系のバレイヤージュを入れた男の子と一緒に座っていた。
「中々、会社員になるとできない髪色だもんね」
席に戻ろうとバッタリ出会した檸檬くんとは、友達ときてる、同僚と来てる、そんな言葉を2、3交してそれぞれの席に戻った。
向こうに聞こえないようにオフ会のことを話した。会社から家近いんじゃないかとニマニマする翠ちゃん。
店を出て解散すると、近くに誰か腰掛けている。
「あれ……檸檬くん?」
「ねこまんま。 少し話さない?」
駐車場で私の車に乗り、少し話すことになった。
「今日はすごい偶然だったね。男の子二人で、入りにくくなかった? このパンケーキメインのお店」
「それで連れてこられたんだよ。友達が一人じゃ入りにくいから一緒に来てくれって。蒼一が彼女と今度来るらしいんだけど、下見したいって言って」
あいつはじめての彼女で……とぶつぶつ言っている。蒼一とは一緒に座っていた頭派手気味の男の子だろうか。
「そういえば檸檬くんって、本名は、なんて言うの? 良ければ聞いても?」
「あぁ……久門 廉だよ。久しいに門番の門、まだれに兼ねる、で廉」
ん? それって……
「それで、“れもん”なの?」
「そそ。ねこまんまは?」
「私は 花咲 桜 だよ。なんか今更名乗るなんて、変な感じだね」
「ん?なんでねこまんまになった?w」
変な名前にしてるのがなんとなく恥ずかしいが…
「“猫”好きだしご飯にお味噌汁かけた"ねこまんま"も好きだから?」
なんだそれ、と笑われながら。家近いのかとか、誰ときたのかとか、他愛もない話をした。
「じゃあ会社この近くなんだ?」
「うん、実は。だから眼鏡届けに来るとき、近いなーとは思ったよ。ただ、会社挟んであのコンビニとは家反対方向だから、あっちははじめて行ったけどね」
送ってくよ、と車を出す。
「なんか雑談ばっかしちゃってごめん。そういえば話したいこととかあったの?」
ちらりと見た、手で自分の口を覆った檸檬くんの横側は、少し頬が赤い気がした。
「ううん。ごめん無いよ。偶然会ったからちょっと話したかっただけ。今日ゲーム入る?」
「ううん。明日も仕事だし今日は寝ちゃうかも」
程なくして檸檬くんのアパートにつく。
「送ってくれてありがと。ねこまんま……いや、桜も気をつけて」
「こっちこそ声かけてくれてありがと。話せて楽しかった〜〜」
◇◇◇
「パーク行きたい! パーク! 暁、行こうよ〜〜」
ギルチャでミミミさんが暴れている。
「仕事。」
「エーン!真白〜〜!」
「ごっめんミミミちゃん。今店稼ぎ時でさぁ」
「ねこまんまちゃ〜ん!」
「え? いつですか?」
あゆみさんと夢パーク行きが、唐突に決まった。




