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忘れ物

 “ついたよ“っと。

 檸檬くんの家から歩いてすぐのコンビニらしく、ついたら連絡すると言ってあった。

 中でカフェオレといちごミルクを買ってコンビニを出ると、ちょうど向かってくる背の高めのシルエットが見える。


「すっ、すみませっでした」


 Tシャツに膝下丈のジャージ姿の檸檬くんが、走ってきたのか息を切らせていた。


「だ、大丈夫? ハイ眼鏡」


 目的のものをまず先に差し出す。

 檸檬くんはふーーーーっと大きく息を吐き、胸元のTシャツで汗を拭うと眼鏡を受け取った。


「ありがとうございます。ほんとごめんね。助かった」

「昨日の恩に比べましたら、お安い御用で。これ、どっち飲む?」

「あ、じゃあいちごミルクもらいマス」


 いちごミルクを開ける檸檬くんを見やると、わざとなのか忘れているのか……


「おでこ、可愛らしい猫のクリップついてるけど……大丈夫?忘れて出てきちゃった?」

「うわっ! 忘れてた……ハズーー。プレイ中は前髪邪魔であげてんだ」


 パチンと外すと、すっかりセンター分けにあとがついてしまった前髪を撫で、眼鏡をかける。


「夜道に気をつけてね、カワイコくん!じゃあ私帰るねーー。今日はゲーム終わりにするから、またなんかあったら連絡して!」

「うん。わざわざありがとね。車これ? 意外と可愛いの乗ってるんだね」


 薄いピンクのコンパクトカーは、燃費重視で選んだ車だ。


「カワイイでしょ。燃費いいんだよ~」

「ゲームで車種と色言ったらきっと、女性だって信じてもらいやすくなりそう……ってか、ナンバー5628ってまさか……」

「ごろにゃ~」


 気付いたか。めざといやつめ。猫のポーズをして見せる。


「はっははっ! 分かりやすすぎ! 覚えた。見かけたら窓ノックするかも」

「え?そんな分かりやすい? 280より難易度高いかと思ったんだけどなぁーー。ま、いいや。じゃあね」

「はい、おやすみなさい」

「おやすみーー」


 車を出すとバックミラー越しに、コンビニの明かりに照らされた檸檬くんがいつまでも手を振っていた。

 乗せてってあげればよかったと少し後悔した。




◇◇◇




「オフ会どうだった?」

「翠ちゃん! お疲れ様ー」


 会社の食堂でお昼を食べていると、お弁当を持った同期の翠ちゃんがやってきた。


「聞いて聞いて!! すっごかったんだよ!」

「まずーーギルマスって言ってわかるかな?

 オフ会の主催者が爆乳美女で、前に話した雑誌載ってた美容師とーー」


「待って待って、既に面白そうなんだけど! ちょっと今日仕事上がりご飯行こう、ご飯!!」



 定時をちょっと過ぎて仕事を上ると、檸檬くんから連絡が入っていた。

“今日何時に入る? 狩り行こう”

“今日は、遅くなるかも。同僚とご飯”

っと。



◇◇◇


 会社からさほど遠くないカフェで、翠ちゃんとご飯を食べて、経緯を話しながら食後のパンケーキをつついていた。


「怪しい!」

「へ?」


 染みるーー!

 パンケーキに生クリームをとっぷりつけて頬張れば、疲れた身体に染み入るようだ。


「その、ゲーム相方の檸檬くんだよ。胸ポケットにかけてあった眼鏡、そんな上手いことトートバッグに入ると思う?」

「んーー。でも入ってたしなぁ」


 翠ちゃんは生クリームの山にパイナップルを勢い良く突っ込み、訝しげにこちらを見てくる。


「入れられたんじゃない!?」

「えーー? なんでわざわざ?」

「住所は教えたことないんだよね? 送ってもらって特定しようとしてたとか。もう一回会う口実作りとか!」

「……、翠ちゃん、恋愛漫画読みすぎだよーー」


 苦笑いして、お手洗いに立った。

 なんだかんだもう1時間半以上カフェにいる。スマホを見れば20時をすぎた所だ。


 席に戻ろうとして、人とぶつかる。


「あ、すみませーー」


 言いながら、背の高い相手を見上げて固まった。


「あれ、ねこまんま?」

「檸檬くん!?」


 長い前髪で顔を隠し、昨夜届けた伊達眼鏡をかけた檸檬くんだ。



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