最強から最弱へ 1-1
「いい加減にしろぉーーー!!!!!」
大きな罵声が、魔王城全体に響き渡る。
その声量たるや大地を揺るがすほど。
コウモリ達は驚き飛び去り、下階の冥土小悪魔は皿を落とし、憲兵のスケルトン達はバラバラに崩れ落ちる。。
一声にして魔王城を混乱に陥れる怒声であったが、震源地である王室で彼は「ふぁ~」と呑気に欠伸をして返した。
「どうしたの、そんなカリカリしてぇ。大事な魔力が減っちゃうよ?」
「カリカリではない! 正真正銘の憤怒だ、馬鹿者! 帰れ!」
「まぁまぁいいじゃないのぉ。俺とお前の中じゃん、シオンちゃん」
「その名で呼ぶなぁー!!」
シオンと呼ばれ、更に怒りのボルテージを上げる少女。
玉座から立ち上がると、中心に敷いてある真っ赤な絨毯に寝転ぶ男の胸倉を掴んだ。
「我々は敵同士だぞ、貴様の頭はからっぽか!?」
「昔の話でしょ~もう俺に戦う力はないって、魔王様」
男は少女のことを『魔王』と呼んだ。
少女の見た目はあの悍ましい見た目をした魔獣とは当然かけ離れている。
赤黒いお目々で睨みつけ、ギリッと歯ぎしりを鳴らす様。
瞳よりもやや明るい髪の毛は腰まで伸びており、頭頂部には二本の角。
よく見れば、確かに魔王の面影はあるのだが。
「……はぁ、全く、ここまで落ちぶれるとは……名を聞いた我が馬鹿だった」
「ご期待に添えず申し訳ございませんねぇ」
そして、少女に睨まれても全く動じない飄々とした男。
小汚い格好で、無精髭も生えているが……この男は勇者アリアだ。
頭をボリボリ掻きながらニヤけるアリアの姿を見て、シオンはもう一度「はぁ」と呆れたようにため息を吐いた。
「本来であれば、我を倒した英雄として未来永劫語り継がれる筈であろう者が、魔王城の居候とは。この結末、一体誰が予想できた」
「それを言うならシオンちゃんだって、まさか幼女になって転生してくるとは誰も予想できないでしょ~」
「この姿は力を溜めているだけじゃ。力さえ戻れば、今直ぐ貴様を八つ裂きにして世界を支配してやる」
「このステータスと見た目で脅されても、全然怖くないねぇ」
「ちょ、馬鹿者っ! 人のステータスを勝手に見るでない、セクハラ!!」
アリアはわざとらしく目の前にシオンのステータスを展開する。
その数値は、誰もが恐れた魔王ドミナシオンのものとはかけ離れていた。
==========
名:ドミナシオン・ドミニオン
種族:魔王
性別:不明
LV:1
体力:203
魔力:405
物理攻撃:25
魔法攻撃:120
物理防御:11
魔法防御:156
速さ:19
==========
五桁の数字が一切表示されていない。
が、アリアは改めてシオンの数値を見て思う。
レベル1でこの数値は、正直ヤバいと。
「な、なにをー!! だったらお前の数値を見てやろうか!」
「ああ!? おい、馬鹿、やめろ!!」
そう言ってシオンは目の前に、現勇者のステータスを表示した。
==========
名:アリア・アリアンサ
種族:勇者
性別:男
LV:1
体力:85
魔力:68
物理攻撃:93
魔法攻撃:20
物理防御:58
魔法防御:13
速さ:34
==========
「ぷふぅー!!」
アリアの数値を見て、わざとらしく吹き出すシオン。
にやにやと口角を上げながら貧弱なステータスの持ち主を指差し嗤った。
「なんだぁこの数値、もしかして赤子かぁ?」
「うるせぇ、人間ってのは伸び代がデカいんだよ!」
「言い訳は結構、現に今の貴様は我よりも雑魚雑魚の雑魚ということだろう?」
「やんのか、てめぇ!」
「かかってこい、俗物!」
二人は同時に飛びかかり、殴り合った。
けれどもあまりに能力値が低い為、子ども同士の喧嘩のようだった。
ぽかぽかと頭を、身体を殴り合う勇者と魔王。
この二人が過去、世界の命運を賭けた死闘を繰り広げたと一体誰が思うだろう。
「この、このこのこのぉ!」
「ちょ、角を持つな、このぉ!」
「お二人とも、喧嘩はそこまで!」
「「うわッ!」」
加熱していく低レベルの戦い。
そんな二人の間に割って入る者がいた。