死闘の果てに
五メートルは超える巨体。
頭には二本の長い角が生えており、口元には肉を簡単に切り裂く鋭い牙。
赤い体毛に包まれた筋肉質な肉体。
獣のように前傾姿勢になり、血液の如く赤黒い瞳は正面を睨みつけていた。
化け物の視線の先には、精々1メートル半程度の身長を持った人間が立っている。
銀色の剣を構え、この恐ろしい生物に対して勇敢にも立ち向かう。
「まさか貴様が、ここまで我を追い詰めるとは驚いた。伊達に勇者を名乗ってはいないということか」
「俺だって驚いたさ。魔族の王ってのは人間と違ってお飾りじゃないんだな」
勇者と魔王。
人間の英雄と、魔族の王は荒野の中心で対峙していた。
周りに邪魔する者は誰一人としていない。
武装した人間、魔族ともに地面にひれ伏し僅かな呻き声を上げている。
激戦の後、残ったのは彼ら2人だけだったのだ。
「名を聞いておこうか、人間」
「自分から名乗るってマナーを知らないのか? まぁいい、俺の名は『アリア』、アリア・アリアンサだ」
「クク、魔族にマナーを問うとは、面白い男だ。我の名は『ドミナシオン』、冥土の土産に覚えておくがいい」
「こっちの台詞だ!!」
剣を握る手に力を込め、魔王に向かって駆け出す勇者。
刹那、数え切れない数の魔法陣が彼の周りに展開されたかと思えば、中から炎の槍が現出し、襲いかかる。
雨の如き槍撃、しかし勇者は軽やかに身を翻し僅かな隙間を抜けていく。
肉薄する距離は戦いの終着を予見させる。
勇者は眼前まで接近すると、飛び上がると同時に剣を天に向かって掲げた。
「な、何!?」
「終わりだ、ドミナシオンッ!!」
剣は神々しく輝き、周囲を照らす。
全ての魔法属性を同時に発動させたSSSSS級の超最上級剣術が今、魔王の脳天に向かって放たれようとしていた。
両手を正面で交差させ、防御姿勢を取る魔王であったが、最早手遅れ。
勇者は剣を振り下ろし、必殺技の名を叫ぶ。
「天空勇者斬り!!」
「ぐぎゃぁぁぁああああ!!!」
ただの唐竹割りだったが、その威力たるや一国を滅ぼす程。
それを一身に受けた魔王の身体は、中心から半分に割れ断末魔の叫びを上げた。
ドスンと砂埃を上げ、左右に倒れる魔王。
吹き出る血しぶきを浴びながら、勇者は静かに右腕を上げた。
「俺の、勝ちだ!!!」
彼の勝利は、人の勝利を意味する。
長年に渡る魔族と人間の戦争に終止符を打ったのは、勇者であった。
勇者アリアは、世界を救った英雄として後世まで語られることとなる。
……筈だったのだが。
お世話になっております!
この度、新作の投稿を始めさせていただきました。
普段は官能小説を書いており、約2年振りとなる全年齢小説で緊張しています…。
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