ジュリアの懺悔9
「フェイクツー」の記憶を植えつけられた荻野柾は、殺意そのものに心と姿を変えました。魔法少女でもなく、荻野柾でもない、鋭い眼差しを持つ大人の女性の姿に。一瞬で「魔女狩り」妻木麻衣子に致命傷を負わせ、血の海の上で両手首を踏み砕き、何度も腹を蹴りつけながら尋問をするその姿は、かつての平行世界のヨーロッパ戦線における荻野真咲そのものでした。
瀕死の麻衣子によって「フェイクツー」の記憶を消去され、柾は一度その人格を取り戻しましたが、その心には深い闇が残りました。自分は偽物だった。産まれてくるべきではなかった。消えたい。消えたい。消えたい。消えたい。消えたい。消えたい。消えたい。消えたい消えたい消えたい消えたい消えたい消えたい消えたい消えたい消えたい消えたい消えたい消えたい。
イゼベルと麻衣子は偶然その場にいた三津山愛子に匿われ、麻衣子の傷を癒すべく逃走しました。麻衣子の雷の力で、周辺にいた人々の直近の記憶を消去した上で。
記憶の消去を免れたのは、千秋早苗の魔法により守られた、一部の魔法少女と妖精だけでした。
「天使」伊達安寿が荻野真咲に接触するため、私が通う中学校に「転校」してきたのは、その翌日になります。
決闘で傷ついた八神あかりは荻野柾に匿われ、東京都に帰った千秋早苗と情報を交換します。「魔女狩り」が同郷の四級魔法少女カミナ・ルイに似ていること、「魔女狩り」に似た格好の女性――荻野真咲――が東京都で何度も目撃されていることを知り、あかりは東京都に向かいました。
そして「天使」が魔物を喰らい完全体として顕現した現場で、私と、荻野真咲と邂逅したのです。
荻野真咲は、ここに来てようやく私に正体を明かしました。自分は平行世界からやって来た、荻野柾と同一人物にあたる存在だと。伊達安寿が補足します。二つの世界を結んだのは、この「物語」の「語り手」である私だと。
千秋早苗に案内され、荻野真咲たちとともに私が妻木麻衣子の生家に向かっていたその頃、荻野柾は「魔女狩り」麻衣子の襲撃を受けていました。
また、私たちが麻衣子の生家に辿り着いたそのとき、そこには建物に残る記憶を音声として「録音」できる「天使」が潜んでいました。「天使」は荻野柾の心を上書きして、より荻野真咲に近い存在とするため、「魔女狩り」麻衣子と交戦する彼のもとへ向かいます。この世界をも「荻野真咲」を主人公とする「物語」の舞台にするために。伊達安寿により「魔女狩り」の力を得た私は、荻野真咲とその後を追いました。
柾が「魔女狩り」麻衣子を倒したそのとき、駆けつけた「天使」が柾に向けて「フェイクツー」の記憶を「再生」しました。「天使」は紫苑弐式と合流した真咲によって祓われましたが、私たちは、間に合いませんでした。遅すぎたのです。真咲と出会ったその瞬間、柾の心は再び壊れました。
柾の悲痛な叫び声が聞こえました。言葉にならない、ただただ負の感情を吐き出した声。
――私のせいだ。私が彼をこんな目に遭わせてしまった。涙が止まりませんでした。耳を塞ぎたくて、喚きたくて。どうしてこんなことになってしまったのって。
ここまでが、当時、自動的に作成され、魔法少女協会に提出されていた行動日誌のうち、記録が残っているところになります。
あれから十数年が経ち、私の記憶も朧気になってしまいましたが、完全に忘れてしまう前に、書き残しておこうと思うのです。あれは少女の頃に見た「夢」だったのだと、自ら記憶を書き換えてしまわないように。




