ジュリアの懺悔4
私が十数年前に実際に経験したそれとは異なる、あの「物語」の大筋は、概ね下の通りです。
ある日、牧野皐月は水妖精ティオトリオと契約し、魔法少女・真鶴メイとして魔物を祓うことになりました。皐月は次々に強力な魔物を祓い、やがて最高位の魔法少女である「一級魔法少女」となりました。人格者である彼女は同業者からも慕われ、あらゆる相談を受けることになります。
そして、事件が起きました。
何者かが複数の魔法少女を襲い、再起不能にしました。魔法少女であった少女は、相棒の妖精の全霊力を注がれて肉体は回復するものの、妖精と魔法少女に関する記憶を失います。全霊力を相棒に注いだ妖精は瀕死に近く意識がない状態で故郷に送還されるので、犯人の情報は何も残りませんでした。
――同じ魔法少女の仕業ではないのか?
疑いの目を向けられたのが、皐月と同じ一級魔法少女たちです。聖妖精ヒィナと契約した一級魔法少女・神谷ヒカルこと八神あかり、そして火妖精ネーネコニャと契約した一級魔法少女・ユーリィこと道明寺ジュリア――つまり私のことです。
先に疑いが解けたのは八神あかりでした。彼女の相棒ヒィナが世を忍ぶ王族であり、貴族間の政争から離れた立ち位置にあることが明かされたからです。
対して、妖精ネネコの雇い主は政争の中心にいる貴族アドウイースタントリスティアキィマです。私が短期間に一級魔法少女になったことも、魔法少女たちの憶測を後押しました。
時を前後して、私は魔物に襲われた同級生の山下美鈴を助け、そして強く憎まれていました。彼女の恋人が私に言い寄ったこと、彼女が自暴自棄になって交際した悪い大人に捨てられる現場に立ち会ってしまったことが主たる原因です。
美鈴は手首を切って自殺を図り、一命は取り留めましたが、以来、学校には戻ってきませんでした。彼女の「友だち」が口々に私を責めます。あんたのせいでしょ。美鈴に謝りなさいよ。謝れ。謝れ冷血女。謝れって言ってるでしょ。 私だったら友達を死なせるようなことして生きてられない。そうよ、あんたが死ねば? 死ねばいいじゃん。 その目は何? 自分は悪くないってわけ? マジで死ねば? あんたが死んだって誰も困らないし。
やがて「友だち」はこの事件のことをインターネット上に公開し、「罪人」である私の個人情報を晒しました。嫌がらせは私だけでなく、家族にまで及びました。それも、「義侠心」に駆られた赤の他人によって。私たちは引っ越し、以後、私は世間との関わりを絶ちました。
三津山愛子が美鈴に接近したのは、その騒動で情報を得たことによります。
三津山愛子は心に闇を抱えた女性でした。世の中を憎むだけの、ただの人間でした。彼女の心の闇に、特別変異により人の姿を得た頭の良い狡猾な魔物である「魔族」が付け入り、魔法少女を狩るための手駒捜しを命じました。
「魔族」は愛子の手引きで美鈴に出会い、彼女を「魔女狩り」とする契約を結びます。魔法少女を狩り、魔物をこの世に実在させるために。「魔族」は、肉体を持つ人間になりたかったのです。いつしか愛情を育むようになった愛子と、ともに生きていくために。
美鈴は私を憎んでいたから、「魔女狩り」となって魔法少女を襲い続けました。最終的に、どこかに姿を消した私を狩るために。
それから。皐月とあかりの説得により、私は魔法少女として活動を再開しました。「魔女狩り」をおびき寄せ、因縁を終わらせるために。
私は一騎討ちにより美鈴を倒しました。彼女の憎しみの記憶は消え去りましたが、それが正しい解決であったのかわからないままに。
そして私は、心の隙を突かれ、新たな「魔女狩り」となりました。私が「魔族」の行動原理を知り得たのは、彼と契約したためです。
皐月とあかりは「魔女狩り」となった私を倒し、私は再び魔法少女に戻ります。私たちは三人で「魔族」を祓い、一連の騒動はこれにて幕を閉じました。
そして、世界中で「魔族」が産まれていること、魔法少女と近しい存在が「魔族」と戦っていることが判明し、いつか複数の「物語」が一つに収束することを予感させ、「物語」は次の段階に進むのです。
――これが、「フェイクスリー」イゼベルの介入がなかった、荻野柾と妖精リアが出会わなかった、荻野真咲と荻野柾にどうしようもない絶望を与えずに済んだはずの、私たちの本来の「物語」でした。




