フィクションとノンフィクションの狭間。
夢の中に息子たちがいたから、そこに戻りたくて目を閉じた。夢の続きなど見れはしないし、身支度を整える間に内容も思い出せなくなっていたが。
故人の思い出がそんな風に誰の記憶からも消えてなくなってしまうのは寂しいから、語り継ぐ。生命の本能に根ざす感情なのかもしれない。
「――父は国士でした」
母の同母弟である叔父が、その父ソウジの葬儀で、故人の――多分にいいところだけを抜き出した――一生を物語った。
第二次世界大戦中、さる大物政治家の書生だったソウジは、密命を帯びて警官になった。当時の反戦思想弾圧から、政治家、思想家たちを守るため、その捜査情報をリークする。盲目の兄と歳の離れた妹を養いながら、大空襲を生き延び、終戦を迎えるまで、その危うい綱を渡り続けた。
戦後しばらくして、ソウジは警官を辞めて起業した。社会に大きく貢献したという。まあ、国からなんとか褒章を賜っていたのは確かだから、それほど大袈裟に美化された話でもないのだろう。
この辺りの美談だけ切り取れば、偉大な人ということになるか。物語の主人公なら「名もなき英雄たちの一人」などと銘打つところ。まあ、現実はきれいな話ばかりではないが。
祖父たちの過去については、その生前よりも、没後に知った話の方が多い。得てしてそういうものなのかもしれない。遺された者は、主観と脚色を交えながら、誰かに語り継ぎたくなるのかもしれない。存在そのものが、消えてなくならぬように。
40歳。人生の折り返し地点を越えたのかもう少し先なのか。