シン・二級魔法少女☆荻ノ花真咲5
胸の前で両腕を交差させる。「バロムクロス」の一声で僕は魔法少女に変身し、唐突の変身に戸惑うこけしに相対した。彼女にまじめな話をしようと思ったら、人形の状態では差し障りがあるので仕方ない。本人が言うには“人形には脳がないから思考力が極度に低下する”とのことなのだが、そもそも脳がないならどうやって物事を考えたり……やめよう。こんなことをまじめに考えても仕方がない。
「今日はコッコさんに大事な大事なお話があります」
てー、ててててーててー。二級魔法少女・荻ノ花真咲として登録されて三週間。荻野家の家計は未曾有のレッドゾーンに達し、九州電力に突きつけられた現実に、私はウッソとその感想を口にした。今月、電気使用料3426円、『先月の二倍』。
「見てください」
でんでででん。ずいっと差し出した九州電力からの通知に、こけし(Ver.YoSay)がぷいっと顔を背ける。その小さな横顔に「先月の二倍っス! 荒んだ懐にテレビは危険なんです!」とぺしぺし言葉の鞭を浴びせた。エマージェンシーだ! 何せ仕事をしていないから、魔法少女として動き回る時以外は一日中家にいて、ずっとテレビを見ている。いや大した出費じゃないだろうって思うじゃん? 無職の私にとっては違うな!
「しかし人形でいる間はテレビに興じるくらいしかすることがないでのう。何せ手も足もないのじゃからな」
「本を読みましょうコッコさん。本は心のごはんです。オレもなるべくこの魔女っ子姿で生活するのでどうか。多分スーパーサイヤ人の状態で平常心を保つ的な訓練効果もあるんじゃないかと思わなくはないのでどうか」
「貴様のコレクションな……どうにも巻数が途中からのものが多くて、読もうにも支障があるのじゃが……」
「そのミッシングリンクは実家にあるんでいずれ……ほら、これとかどうスか? 司馬遼太郎の城塞はここに全巻揃ってるっスよ」
「却下」
「なんでなんスか!? 司馬遼太郎は中学生だったオレを歴史の浪漫にいざなった神っスよ! しかも時間がたっぷり潰せるんスよ!」
「自分の趣味を他人に布教しようとするのは悪いオタクじゃぞ。それ以前に、異人さんのわらわに小説はハードルが高い」
「……まあ、なんか読めるものを適当に発掘してくださいよ。俺が録画していたアクエリオンを勝手に見て、合体シーンに微妙な顔する作業は置いといて」
「もう7話まで見たのじゃぞ! ここまで来たら最終回まで見せぬか!」
一人で見たいアニメってあるよなあ………………エロいシーンがあるアニメじゃよ! 創聖のアクエリオンは単体でも十分に見られる作品なのにところかまわずエロを挿入するなあ! 異種族の女の子と鑑賞する微エロアニメ…………………これは『勇気』と呼べるだろうかねェ。……まあ、ブレンパワードのオープニングより少しはマシかもしれない。あれは本当に親の前で見るのが辛かった。「今日はキリのいいトコまでっスよ」と何でもないような口ぶりでポーカーフェイスを装い、こけしの好物である蜂蜜を小皿に垂らして手渡す。密かに「まるでカブトムシに餌をやってるみたいだなあ……」と思ったことは永遠の秘密だ。万年床の上に例の黒いアイドル衣装のまま寝っ転がり、「面白いのになあ」とぶつぶつ言いながら読みかけだった「馬上少年過ぐ」の続きを読み始める。
総てが妥協の中に流されて行った。体も、技も、心も、過ぎていく時間さえもが風の中に溶け込もうとしていた。荻野は何も考えず、何も想わず、ページをめくった。荻野の眼は司馬遼太郎の紡ぐ浪漫を眺めていたが、心はテレビを眺めていた。時、4月23日。荻野柾、24歳と6か月の青春。風の妖精と生きる時。




