シン・二級魔法少女☆荻ノ花真咲4
少女がいた。髪の色が僕のパチモンヘアーと同じの。魔法少女として登録されて二週間。彼女は初めて遭遇した同業者なのだが、その相手がコーボルトであったから奇妙な既視感がある。もっとも、あちらさんはいかにもなステッキを片手にマジカルパウアー全開で戦ってくれちゃってるわけなんですけどね。彼女が「ストーンバレットー!」とか「ロックマシンガーン!」とか叫ぶたびに、石つぶてやら岩やらがどこからともなく現れてはあの犬頭を蹂躙しちゃってる光景に、思わず「何だそりゃっ!」とツッコミを入れるのは極々自然なことだと思う。僕、デビュー戦で右手の骨にヒビ入りましたしね。
「オレが風の使者だけにライダーパンチやライダーチョップやライダーキックで頑張ってた時に、あの子はあんな便利ツールを使ってたんスね……」
「それはまことに心苦しく思うておる」
魔法少女協会から配布された豆本みたいな名簿(どこからともなく出現して消える)をめくりながら、こけしが彼女の源氏名を特定する。
「ふむ、四級魔法少女ヒバリか……」
ちなみに四級魔法少女ヒバリちゃんの顔は僕と違って作り物ではないらしく至って平凡な日本人的で、ロングストレートのピンク髪はかわいいというより悪目立ちしているだけに見えるな。それに僕、ロリコンじゃないですし。ついでにコスプレ否定派なんで微塵にも萌えませんよ。ま、そんな中傷にも聞こえかねない批評はさて置くとして。
「やれやれ、早い者勝ちとはいえ獲物を奪われてしまったのう」
「無事に勝ったみたいっスね……じゃ、帰りますか」
光となったコーボルトを前に肩で息をする同業者を見下ろし、出遅れ上空で見物していただけの僕達がすごすごと帰ろうとした時、こけしが異変に気づいた。
「もう一匹いるのじゃ!」
いる。膝をつく少女の背後に、黒い体毛を持つもう一匹のコーボルトが。しかも彼女はその気配に気づく様子もない。冗談じゃないぞと急行しつつ、「後ろだ!」という声を風の力で“送る”。声は届いたようで動く素振りを見せるものの、消耗が激しいらしく、動作が鈍い。「ちくしょう、高かったんだぞ……!」と呟きながら、装着していた風よけのゴーグルを外し、コーボルト目がけて投げつけ、“撃つ”。
「……入っただろ!」
直撃。脳天に風と重力によって加速された“弾丸”を受け、黒い塊がよろめく。その姿を視界の端に捉えながら空中で身をひねり、足から落下する姿勢で右足を振り上げた。その敵意に満ちた表情が視認できる距離に到達した瞬間、一気に振り下ろす。ぐちゃ、と頭蓋を潰したような感触に思わず鳥肌を立たせながら、反動で崩れた姿勢を整え、立ち尽くすヒバリの前に着地した。刹那、閃光が、僕達を照らす。 間近でそれを直視してしまったために悶絶してのたうち回っていると、ヒバリが消え入るような声で「あの……大丈夫……?」とおそるおそる話しかけてきた。大丈夫と何度もうわ言のように繰り返しながら目を開ける。ヒバリと、その相棒であろう小妖精が目を丸くして僕を凝視していた。数拍の間をおいて、ヒバリが興奮した様子で詰め寄ってくる。
「すごいすごいすごいすごい! あなたも魔法少女なんだね! ワタシ、四級魔法少女ヒバリです!」
「は、はあ……」
小学生の高学年くらいかな。この年頃の女子にどう接したらいいのかわからない。いや、江戸川コナンとして振る舞う工藤新一の凄さを再認識するわ……。ヒバリが無邪気に「お友達ができて嬉しい!」などとはしゃぎながら名前を尋ねてきた。二週間前にあの魔法少女登録許可申請書にテキトーに書き込んだ源氏名はなんだったか。ちゃんと覚えてない。こうやって名乗る場があるなら真面目に考えるんだったな……。
「え、えーと……その……オギノ……オギノハナ、です?」
確かこんなだったよな、と記憶を辿り返答すると、ヒバリの相棒の妖精が例の名簿をめくって、なんかすごい驚いていて。
「オギノハナって……前代未聞の二級スタートを果たしたって噂の、あの二級魔法少女・荻ノ花真咲!?」
あー、そんなだった。本名を少しだけもじったやつ。普通に本名を書きかけて、最初の「荻」だけ残してテキトーに考えたんだった。「ええ、まあ、実は……」ともごもご答えながら、じりじりと距離を離した。一方的に「時の環が接する所でまた会うかもね!」と話を打ち切り、脱兎の如く逃げ出す。いや本当に女子小学生との会話はきつい。ま、小学生じゃなくても苦手だけどな!
「何じゃ、二級魔法少女・荻ノ花真咲とコッコクェドゥースイナクシャータリアここにあり、と名乗りを上げんと思うておったのに……」
不満そうに口を尖らせるこけしを強制連行しつつ、月下の空を駆ける。今日も無収入のまま、またもや出費だけがかさんでいった。




