晩餐会-16-
綾音さんは麻耶さんに何か言いたげな顔を浮かべていたが、我慢しているのか、言葉には出していなかった。
その様子を見て、俺は二人の普段の関係性をなんとなくうかがい知る。
と、そこに美月さんが、口を挟む。
「しかし……それを言うのならお母様はこういう社交の場に出るのは好きではないはずでは……いつも仕事を口実にわたしに押し付けるじゃないですか。それにお母様がこういう格好をするのはわたしの記憶する限りあまり見たことがないのですが……」
「そうです! 美月の言う通りです。麻耶さんはいつもわたしに愚痴を言っていたじゃないですか。下手にお洒落をすると変な男がよってくるからスーツ姿が一番楽だって! それなのに今日に限ってなんでこんな姿で——」
と、綾音さんも、美月さんの加勢を得たためか、俄然麻耶さんに食って掛かる。
「こ、これは……そ、その……そうよ! し、仕方がないことなのよ。今日はいつもと違って、相手が相手だから……米国の高官相手に失礼なことはできないでしょう」
「いや……政府公式の晩餐会という訳ではないですし、別にいつものスーツ姿で問題ないと思うのですが……やっぱり今日はお母様にとっては特別なお相手がいるからでしょうか……いやお母様に限らず花蓮さんも鈴羽さんにとってもかな……」
「な、何をあなたは言っているのです! そんな馬鹿な訳が——」
「いや……ですが、お母様は今日はほとんど一日中服装選びをされていましたよね。わたしがあれだけこの会の準備に追われているのに、まるで無視して……」
と、美月さんはひとしきり恨み節を言うと、
「まあ……ライバルの花蓮さんや鈴羽さんに負ける訳にはいきませんもんね。あの二人も衣装を選ぶのに相当時間をかけていましたし」
やれやれと頭を振る。
「み、美月! い、いい加減にしなさい。これ以上言うならわたしも本気で怒るわよ」
と、麻耶さんはかなり立腹している様子だが、美月さんは涼しい顔をしている。
それどころか、美月さんはどこか楽しげですらある。
確かに今の麻耶さんの姿は一言で表すならば、妖艶といってよいほどに女性的な魅力に満ちあふれていて、いつも肌の露出を控えたスーツ姿とはまるで違っていた。
麻耶さんは、いつものスーツ姿と同じ色合いのブラックのドレスを身にまとい、胸元と背中を大胆に露出させていた。
これほどまでに体のラインがはっきりとわかってしまうデザインのドレスだと、着る者の体の特徴がダイレクトに出てしまうから、少しでも体型がみだれていると、見苦しく感じてしまうだろう。
それでも、麻耶さんは自身の体の曲線美を優雅に強調し、完璧に着こなしていた。
やはり麻耶さんはとても若々しく見える。
というか、一緒に並んでいる美月さんを見て、母娘だと知っている俺ですら、思わずそのことに疑問を抱いてしまうほどである。
せいぜいが年が離れた姉妹に見える。
それにしても、この母娘の関係性はいまいちわからない。
母である麻耶さんの性格からして娘の美月さんに対して強圧的に命令していて、素直な美月さんが粛々と従っているのかと思っていたが、意外とそうではないのかもしれない。
「敬三様……こんなところでどうされたのですか?」
と後ろから声をかけられて、振り向くと、そこには花蓮さんと鈴羽さんがいた。
花蓮さんは、家紋が入った純白の和服姿、鈴羽さんは淡い青色のドレス姿であった。
二人の服装は昼間に嫌というほど見たはずなのに、周囲の光の関係かはたまた彼女たちがしっかりとメイクアップしたからなのか、いずれにせよ、麻耶さんの姿に目を奪われた俺は今度はたちどころに彼女たちのその魅力的な姿に釘付けになってしまった。
「その……どうでしょうか?」
と、花蓮さんは俺の顔をうかがうように少し上目遣いで言う。
何か気のきいたことを言えればよかったのだが、俺は花蓮さんの服装とその仕草に意識を奪われてしまっていて、
「とても……似合っています」
というありきたりの言葉を言うのが精一杯であった。
と、鈴羽さんが少し不満げな表情を浮かべて、
「あのう……ご主人様……わたしは」
とチラチラと俺の方を見ながら言う。




