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晩餐会-07-

 そんな感じで俺の発言により、微妙な空気が場には流れていた。


 


 と、美月さんがそこに口を挟んで、フォローを入れてくれる。




「ま、まあ……二見さんの記憶が一時的に失われているのでしたら、今はそのことについて話しても仕方がない……ですよね」


 


 そして、美月さんは最後に一言付け加えるように




「それに……二見さんの記憶がない方がここにいる皆さんも色々と都合がよいかもしれないですし。そうですよね……お母様?」


 


 と、皮肉めいた笑顔を麻耶さんに向ける。




「そ、それは……ま、まあ……いいわ。とりあえず今はそういうことにしておきましょう」


 


 麻耶さんはそう言って、再び椅子に腰を落とし、咳払いをした後で、再び話をはじめる。




「とりあえず昨日の二見……あなたの大暴れの後始末だけれど……本当に本当に……大変だったわ」


 


 麻耶さんはそう言うと、事の次第をため息を交えながら説明する。


 


 その間中、麻耶さんは事あるごとに俺の方を見て、嫌味を一言交えながらくどくどと話してくる。


 


 が……俺はそんな麻耶さんの態度はほとんど気にならなかった。


 


 それよりも差し迫った現実的な問題に俺の頭はかかりきりになっていたからだ。


 


 俺は麻耶さんからひとしきり話しを聞いて思わず頭を抱えていた。




 要するに俺は、あそこにいたデスナイトを倒したらしい……まあそれはいい。


 


 俺はその際に、魔法で、協会の建物……さらに何故か戦車まで破壊しているらしい。




 幸い人の被害は出ていないとのことだが、物的損害は甚大のようだ。




 賠償責任はどれくらいになるのだろうか。




 想像しただけでめまいがしてくる。




 異世界において魔法による損害はおおむね戦争中の戦闘によるものだったから、ウヤムヤにされていた。




 が……勝敗が確定した後は、巨額の賠償……というか敗者の国から人や資源を根こそぎ略奪して埋め合わせていたが……。




 今回のケースはどうなるのだろうか。




 兵士ではない民間人……つまり冒険者が平時に魔法で過失による損害を負わせた場合だ。


 


 これも異世界と同じ扱いになるのだろうか。


 


 異世界の場合は、運が良ければ冒険者協会が強制徴収していた保険で賄われていたが……この世界で俺は保険に入った記憶はない。




 となると……やはり俺の個人責任となる。




 戦車の値段は想像もつかないが、建物の被害も考えると少なくとも数千万いや……億単位になりそうだ。




 むろん俺にはそんな金はない。




 数万のアパートの家賃を払うのですら、精一杯なのだ。




 金が払えないとなると、残された道は逃げるか奴隷になるしかないが……いや待て……ここは異世界ではない。




 この世界で金が払えない場合の選択肢……それは確か夜逃げか自己破産だった気がするが……。




「——とにかく関係各所を丸め込む……いえ話をするのにどれだけ苦労したか——って二見! あなたわたしの話を聞いているの!」


 


 と、麻耶さんが俺の方を見て、怖い顔を浮かべている。


 


 俺ももういい年をした大人だ。


 


 当然逃げ出す訳にはいかない。


 


 自己破産……というのも一つので手であるが、やはり返せるものならば、少額でもコツコツと返していくしかないだろう。


 


 俺は覚悟を決めて、立ち上がる。




「……申し訳ありません。麻耶さん。責任は取ります」




「せ、責任ですって……き、急にいったい何を——」




 麻耶さんは何故かややたじろいでいるように見えた。




「自分もいい年をした男なので、あんな真似をしてしまったことの責任を男としてきっちり取らさせてください」




「ち、ちょっと待ちなさい……わ、わたしはあなたにそんなことは求めて……い、いえ……た、確かに『旦那様』と言ったけれど、あれはあなたが無理やり——」




「そ、そうですわ。敬三様。早まらないでください!」




 何故か花蓮さんまで止めに入る。




「損害を与えてしまったお金はどんなに時間をかけても、しっかり働いて返します」




 俺は頭を下げて言う。




 「え?」




 みんなの重なる声がする。

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