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英雄、目覚める-12-

俺はその女の行動と自分が反応できなかったことに唖然としてしまった。


全くの予想外の行動だったから避けられなかったのか、いやそんな訳はない。


こんな脆弱な女の攻撃に本来であれば反応できない訳はない。


やはり俺はあの女の面影を——。


その時、わずかに魔法発動の痕跡の気配がした。


これは遠方……外か。


俺はソウルエコーを瞬時に発動させる。


前方数百メートル先に反応があった。


なるほどもう一匹いたのか。


どおりで、俺はまだこの状態——暗示がとけた状態——で自由に動けている訳だ。


俺は女から離れて、再び体を宙に浮かせる。


「け、敬三様!? と、飛んで——」


女は目を白黒させている。


この女……危険だ。


いずれ俺の障害になる。


できれば処分したいが、制約がある。


いや……制約がなくともやはり俺は——。


ち……この甘さが命取りになったのに、俺は未だにこりていないということか。


俺は女を無視して、そのまま宙を飛んだまま外へと出る。


ソウルエコーが示す先はもうすぐのはずだ。


外は既に夜になっており、あたりは暗くなっていた。


月は曇天の中で陰っていたが、この世界にはありがたいことに光が満ちている。


それに、前方からは魔法発動の痕跡が肉眼でもはっきりと見えていた。


そのため、俺は暗闇の中でも対象を労せず視界に捉えることができた。


眼下にはデスナイトと交戦している二人の女の姿が映る。


全身が真っ黒なデスナイトは女が発動した魔法……サンダーボルト……をその体に受けて、奇妙な色を映し出している。


デスナイトの外観は先ほどの個体とほとんど変わらないが、その装備だけが違っていた。


大剣ではなく、小ぶりの……といっても人の剣よりもはるかに巨大だが……剣をそれぞれの手に装備している。


二刀流のデスナイトか。


交戦している二人の女にはいずれにも見覚えがあった。


俺を拘束した愚かな女——麻耶——と、その娘——美月——だった。


二人は協力しながら、デスナイトと闘っている。


麻耶は遠距離から魔法を放ち、美月は近接戦闘——剣——で応戦している。


傍目から見れば攻撃の手数が多い女どもの方が優勢に見えなくもないが。


女たちの表情には余裕がなかった。


二人とも目の前のデスナイトとの闘いに必死になっていて、宙にいる俺のことにはまったく気付いていない。


デスナイトもまた俺の方を警戒する動きを見せない。


この距離まで近づいてもどちらも俺の存在に気づかないとは……。


やはりどちらも問題にならないほど低ランクだ。


そして、女たちの方は輪をかけてお粗末だ。


傍から見ても、女たちの攻撃はまるで、素人に毛が生えた程度のものだった。


麻耶は、馬鹿の一つ覚えのように、初級の雷魔法——サンダーボルト——を繰り出しているだけだ。


そして、美月もスピードを上げる身体強化を使って、剣を振り回しているだけだ。


こんな有様で未だにこいつらが無事なのが不思議なくらいだ。


デスナイトは確か低ランクのモンスター——せいぜいC級程度——だ。


だが、このレベルの女たちが太刀打ちできるほどには甘くはない。


にもかかわらず、デスナイトはわずかではあるが女たちの攻撃によってダメージを受けているように見える。


デスナイトの動きは徐々にではあるが、確実に鈍っているのだ。


そうか……。


デスナイト……というよりアンデッド系全般の弱点は魔法系統であることが多い。


だから、こんな低級の魔法でもダメージが一応通っているのか。


麻耶の雷魔法を食らうたびに、もともと鈍重だったデスナイトの動きがさらに遅くなる。


女たちはその様子を見て、意気を高めているようだ。


「美月! もう十分だわ。あなたは、下がっていなさい! 後はわたしだけでなんとかするわ!」


「お母様一人に任せておくなんてできません! わたしがこいつを引きつけていれば、お母様も魔法詠唱の時間を稼げます。その間に——」


美月の言葉が終わる前にデスナイトが、剣を振りかざす。


美月は間一髪でそれを交わす。


そして、娘の状況に青い顔をした麻耶が再びサンダーボルトを放つ。


それにしてもたかがサンダーボルトを放つのにこれほどの時間を要するとは……。


この女はやはり度し難く未熟だ。


とはいえ、この母娘の稚拙な連携であっても、一応はデスナイトにダメージは与えている。


サンダーボルト程度のダメージでは気が遠くなるほどの時間がかかるだろうが、この調子でダメージを与えていけばいつかはデスナイトを倒せるだろう。


が……それはあくまで机上の空論。


人は機械ではない。


やっかいな感情という代物を持っている。


だから、すぐに……破綻するだろう。


そして、俺の予測はすぐに現実のものになった。

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