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-05- オッサン、S級冒険者の美女から口説かれる

 異世界でも、こういうことは多々あった。


 


 特に英雄と呼ばれるようになってしまった後は、周りが妙な気を俺につかい、無関係の人間に迷惑をかけるということがよく起こった。




 彼らからすれば英雄である俺に礼をしたいという純粋な思いからの行動なだけに余計に文句を言いづらい。




 だが、巻き込まれた人間たちにとっては良い迷惑である。




 結局のところこうした問題の原因は、俺の空気を読む八方美人的な態度にあるのだと気づき、それ以降は、何でも言葉に出してはっきり言うようになった。




 おかげでそうした問題は異世界ではほとんど起きなくなった。




 とはいえそれは英雄ともてはやされていた以降の話であるし、異世界での話である。




 今の俺は単なるしがない無職……いやいや無職ではない……底辺配信者のオッサンである。




 花蓮さんは俺のことを妙に感謝してくれているが、俺がやったことはそもそもまったく大したことではない。




 運悪く酷く体調を崩していて、低ランクのダンジョンで危機に陥った花蓮さんたちを手助けしただけだ。




 冒険者であるならば、同業者を助けるのは当然のことであるし、それはいちいち感謝されることではない。




 自分が危機に陥ることもあるし、そうした際に今度は自分が同業者に助けてもらうのだから、いわばお互い様な関係である。




 むろん人として最低限の礼はするが、「助かった。今度酒場で一杯おごるよ」といった程度のものである。




 ……もしかしたら花蓮さんにとってはコレが「最低限の礼」なのかもしれないな……。




 そんな風に頭の中であれこれ考えていると、エレベータはいつのまにか最上階についていた。




 鈴羽さんが先導し、俺らは通路を歩いていき、部屋に通される。




 部屋の中は100平米ほどある広い空間であった。




 やけに凝った調度品や絵画が壁際に置かれていて、中央に丸い大きな食卓が置かれている。




 部屋の奥は全面窓になっていて、都内の景色を一望できるつくりになっていた。




 俺は、部屋の豪奢なつくりと景色に息を呑む。




「どうぞ……席におすわりください」


 


 鈴羽さんが椅子を引いてくれているので、俺はそのまま遠慮しながらも席にすわる。




「それでは……わたしは料理の準備をシェフに依頼してきますので」


 


 そう言うと鈴羽さんは部屋を後にする。


 


 と、その際、俺は背中から鈴羽さんの目線を嫌というほどに感じていた。


 


 それは先程の冷たい視線よりさらに強烈なものであった。


 


 どうやら、鈴羽さんは俺と花蓮さんを二人っきりにしたくないらしい……。


 


 実のところ俺自身もあまり花蓮さんと二人だけで残されるのは不安だった。


 


 花蓮さんと何を話してよいかわからないし、そもそも女性と二人っきりになるなんて異世界でもこの世界でもほとんど経験がない。


 


 異世界では最後は英雄ともてはやされたけれど、ずっと数人のパーティーだけで冒険という名の放浪生活だったし、女性とは縁遠かった。


 


 もしも、そういう女性がいたら、俺も異世界に残っていたかもなあ……。


 


 まあ……パーティーメンバーは女性も多くて、仲も良かったが……。


 


 でも彼女たちは、友達……というか仲間、同士だし、そもそも人じゃなくてエルフだったり、獣人だったしなあ……。




 彼女たちは別れる時、大分悲しんで、俺なんかのために泣いてくれたけど……今ごろどうしているのだろうか……元気にやっていてくれればよいが……。




 と、俺は多分かなりほうけた表情をしていたのだろう。


 


 花蓮さんが不思議そうな顔をして、




「……敬三様。どうされましたか?」




「え? あ、ああ……いえ、この場所があまりにもその豪華で……景色も綺麗ですし」




「フフ。喜んでもらえてよかったですわ。それに……やっと静かなところで、二人っきりにもなれましたし……」




「え……は、はあ……」


 


 花蓮さんはそう言うと、何故か意を決したように深呼吸をする。




 そして、なんだか恥ずかしそうに顔を赤らめながら、




「そのう……敬三様。まだ会って間もない殿方にこんなプライベートなことを聞くのは非常に失礼だと思うのですけれど……」


 


 と、花蓮さんはそこで顔をうつむかせて、やや間を開ける。


 


 俺は花蓮さんの言いにくそうな様子を見て、脳裏にふと嫌な予感がした。




 もしかして……俺今かなり臭っているのか……。




 ダンジョンから帰って風呂に入ったし、着ている服も安物とはいえ洗濯はしている。




 だが……俺は40代のオッサンだ。




 加齢臭だけは……どうにもならない。


 


 鈴羽さんが終始冷ややかだったのもこれで説明がつく。


 


 俺はそう結論づけて絶望のあまり顔を青ざめさせていると




「……け、敬三様は……そ、その……今独身であらせられるのでしょうか……」


 


 と、花蓮さんはまったく予想外の言葉をかけてくる。




「え……そ、それは………はいそうですが……」




「……そ、そうですか……。で、では……敬三様。今お付き合いされておられる女性はいらっしゃるのでしょうか?」




「い、いや……全くいませんが……」




「ほ、本当ですか?」




「ええ……は、はい」


 


 俺は、花蓮さんの不可思議な質問に対して、ただ狐につままれたような気持ちであった。


 


 とはいえ、加齢臭はどうやらしていないらしいから……まあ……よかったか……。


 


 花蓮さんは何故か顔を思いっきりほころばせて嬉しそうにしている。

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